BREXITに揺れるイギリスのメイ首相が乗り込むシーンや、映画『007』シリーズでMI6局長が乗るシーンで登場する、印象的なラグジュアリーサルーンがジャガーXJだ。その最強グレードXJRはサーキットを走っても期待に応えてくれるのか?




REPORT◉大谷達也(OTANI Tatsuya)


PHOTO◉田村 弥(TAMURA Wataru)/三橋仁明(MITSUHASHI Noriaki)N-RAK PHOTO AGENCY




※本記事は『GENROQ』2019年3月号の記事を再編集・再構成したものです。

恐ろしくパワフルなスポーツセダン

 XJシリーズ最強の“R”が積む5.0ℓV8スーパーチャージドの最高出力を25㎰上乗せし、新たに575㎰としたのがジャガー最新のハイパフォーマンスセダン、XJR575である。私は一昨年に行われた国際試乗会に参加し、ポルトガルの一般道でスーパースポーツサルーンとは思えない極上の乗り心地を味わってきたが、果たして富士スピードウェイで走らせるとどうなるのか? 期待と不安が入り交じった心持ちでエンジンを始動させた。




 6500rpmからレッドゾーンが始まるパワーユニットは高回転を好むタイプで、回せば回すほどに力強さが増す。ただし、パワーの出方がスムーズなため、575㎰というスペックから想像されるジャジャ馬感は薄く、むしろ従順だ。それでも700Nmの大トルクにとって冷え切ったピレリPゼロのグリップを失わせるのは容易らしく、アウトラップの2コーナーで早くもリヤタイヤがズルッと流れた。このときはまだノーマルモードを選択していてスタビリティコントロールがオンの状態だったが、それでも軽いスライドを容認するセッティングにジャガーらしい気骨を見た気がした。

 公道で快適な乗り心地を示したシャシーは、サーキットに舞台を移しても洗練された感触を示す。それゆえに、ステアリングやボディから伝わってくるインフォメーションが豊富とはいえないが、手がかりは残されており、前述したとおりタイヤのグリップ状態を把握するのも難しくない。また、ロールやピッチングも本格的なスポーツカーに比べて大きめとはいえ、際限なく姿勢を崩していくわけではなく、またロールのスピードもよく制御されているので不安は覚えない。サーキットでタイヤの限界を引き出す走りを試すにも不自由することはなかった。




 ウォームアップが済んだところでダイナミックモードに切り替えると、さらにロールは抑えられるようになった。それでも絶対的には小さくないが、乗り心地とのバランスを考えれば、むしろ絶妙のセッティングと積極的に評価したくなる。

 それにしてもこのエンジンは恐ろしくパワフルだ。サーキットではXJR575よりはるかに速いロータス・エキシージ410にストレートで進路を譲ったものの、その後も大きく離されることなく、300Rまでそのコンパクトな後ろ姿を視界に留めることができたのだから、立派と評して差し支えないだろう。ちなみにストレートエンドでは257㎞/hに達したが、このときもブレーキを労ってかなり早めに減速を始めていたことをお断りしておきたい。




 敢えて弱点を指摘するとすればやはりブレーキだろう。もっとも、この種のスポーツセダンでサーキットを走ればブレーキが多少スポンジーになるのは当然のことだし、その状態でも踏力さえ増せば十分な制動力が得られたのだから、声を大にして指摘するまでもないだろう。




 XJR575は確かにハイパフォーマンスモデルだが、「サーキット走行向き」というよりは「サーキット走行にも対応」と説明したほうが相応しい。これもまたジャガーらしいセンスといえる。

SPECIFICATIONS


ジャガーXJR575


■ボディサイズ:全長5135×全幅1905×全高1455㎜ ホイールベース:3030㎜


■車両重量:1960㎏


■エンジン:V型8気筒DOHCスーパーチャージャー ボア×ストローク:92.5×93㎜ 総排気量:4999㏄ 最高出力:423kW(575㎰)/6500rpm 最大トルク:700Nm(71.4㎏m)/3500rpm


■トランスミッション:8速AT


■駆動方式:RWD


■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡダブルウイッシュボーン


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク


■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ265/35ZR20(9J)Ⓡ295/30ZR20(10J)


■パフォーマンス 最高速度:300㎞/h 0→100㎞/h加速:4.4秒


■車両本体価格:1887万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 極上の乗り心地も素晴らしいが、ジャガーXJR575は富士スピードウェイでも満足できるパワフルさが魅力だ