どこからどう見ても、普通のクルマに見えないテスラ・モデルX。デザインも、ドアの開きかたも、もう「テスラ」というジャンルのクルマに見える。テスラ初のSUV(もちろんEV)であるモデルXにジャーナリスト世良耕太が試乗した。




TEXT &PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

 初めてテスラ・ロードスターを見たのは、2009年のフランクフルト・モーターショーだった。正確に記すと、見たのはボディが被さっていないシャシーの状態で、接着剤による接合を多用したアルミモノコックフレームの後端に、巨大なバッテリーパックが積んであった。このバッテリーパックには、18650規格(直径18mm、長さ65mmの円筒形)のリチウムイオンバッテリーが6831個収まっていた。




 1225kgの車重に対して、バッテリーパックの重量は450kgもあった。「よくもまあこんなものを作ったなぁ」というのが正直な感想だった。のちに、このクルマがヒットしたことを知ることになるわけだが、「一過性だろう」と高を括っていたように記憶する。




 予想が外れたことは、4ドアセダンのモデルSが登場して証明した。2013年に少しだけ乗った。フル液晶のメーターパネルに衝撃を受けたが、もっと驚いたのはセンターコンソールを占拠するタッチパネル式の17インチ液晶ディスプレイで、いまから思えばトヨタ・プリウスPHVや、新型が発表になったばかりのルノー・クリオのインターフェイスを先取りしていたことになる。




「ベンチャー企業にクルマが作れるか」という醒めた目もあったが、モデルSに乗ってみればしっかりとしたクルマだった。むしろ、運転が楽しかった。300kWを超える高出力のモーターがもたらす圧倒的な加速フィールは衝撃的だった。車窓を流れる景色に目が追いつかないとはこのことで、このままワープして異空間に瞬間移動するのではないかとさえ錯覚した。電磁音をともなう静かな、しかし激しい加速も新鮮な体験だった。




 アクセルペダルを戻すと強烈な減速Gが発生したが、これも、国産電気自動車で体験したものとは異質だった。メーターには減速側に60kWの目盛りが刻んであり、相当に強烈な減速Gが発生することを約束していた。最新の日産リーフやノートe-POWERなどの電動車両で採用され、支持者が増えているワンペダルドライブの先駆けである。運転が楽だと思う前に、楽しかった。

 モデルSの次に登場したのが、クロスオーバーSUVのモデルXである。写真から想像していたより実物は大きく感じた。22インチサイズのタイヤ&ホイールを装着してタイヤが大きく見えないくらいボディにボリュームがあるということだ。全長×全幅×全高は5037×2070×1680mmである。




 現時点で選択可能なタイプは2種類あり、100DとP100Dだ。100の数字が示すようにバッテリー容量は100kWh。Dはデュアルの意味で、前後それぞれの車軸にモーターを配置した4WDであることを示している。NEDCドライビングサイクルでの最大航続距離565km、最高速度は250km/hだ。

華奢なアクセルペダルだが、加速は強烈のひと言。

 ハイパフォーマンス版であるP100Dの最高速は100Dと同じだが、最大航続距離が542kmになり、100km/hまでの発進加速は100Dの4.9秒に対して3.1秒になる。どこかで見た数字だと思ったら、ランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテ・スパイダーと同じだった。マクラーレン570Sクーペは3.2秒(0-60mph加速は3.1秒)だ。


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車検証上の車重:2570kg 前軸重1240kg 後軸重1330kg 前後重量配分 48:52

 バケモノである。ベーシックな100Dでも十分に速い。モデルSで体験済みなはずだが、音もなく(スポーツ系エンジン車から乗り換えるととくにそう感じる)強烈に加速する様は異次元のフィーリングだ。モデルXはルーフのかなり後方までガラスが伸びており、見晴らしがいい。特急列車の前面展望席に陣取って道路を走っているような感覚だ。エンジンを搭載したクルマで何度も走っている道が、別の道に感じられるくらい新鮮である。

最新ソフトウェアVesion9.0を搭載。

 インパネセンターにはモデルSと同様に17インチ液晶ディスプレイが収まっている。ステアリングの奥にあるメーターもフル液晶だ。高速道路の走行車線を走っていると、車両が備える複数の超音波センサーで追い越し車線を通過していく車両を捉え、その様子をアニメーション風にディスプレイに表示する。「このクルマは常時、周囲に目を光らせており、近くにいる車両の存在をしっかり把握している」ことをドライバーに伝えるわけだ。テスラ・モデルXは、電気で走ることだけがウリではなく、先端技術を駆使した安全性能も大きなセールスポイントである。

ボディサイドにはカメラが

カメラが捉えた映像は、ここに映し出される。

 今回の短い試乗機会では制御のキャラクターを確認するまでには至らなかったが、聞くところによると、横滑り系の制御はかなり早めのタイミングで介入するという。ドライバーに操る楽しさを与えるより、安全を第一に考えた開発スタンスだ。

リヤドアの開閉は、ここにある赤いボタンを押す。身長164cmの女性が操作するとこうなる。小学校低学年の子どもには届かないかも。

 クルマのボリュームが大きいだけあって、後席は至極快適である。ガラスルーフのおかげもあって開放感はたっぷりだ。電動で開閉するファルコンドアは、関節が動いて開閉時の横への張り出しを抑える凝った構造を採用している。ドアを開け閉めする様子も目立つし、ドアが開いた状態もかなり目立つ。駅のロータリーに家族を迎えに行った際、運転席の操作でファルコンドアを華麗に開くことは可能だが、家族がその行為を歓迎するかどうかは別問題だ(乗り降りはしやすいが)。

乗車定員は6名。3列目シートを倒すとこうなる。室内はルーミーで開放感がある。もちろん、ボディも大きいのだが。

テスラ・モデルX P100D


■ボディ寸法


全長×全幅×全高:5037×1990×1680mm


ホイールベース:2965mm


車両重量:2570kg


サスペンション:F/Rダブルウィッシュボーン


定員:6名


駆動方式:AWD


■モーター×2


最高出力:603ps(444kW)


最大トルク:967Nm


■バッテリー容量:100kWh


■トランスミッション


1速AT


価格○1780万円

情報提供元: MotorFan
記事名:「 エンジン車(!?)で何度も走っている道が、別の道に感じられるくらい新鮮::テスラ・モデルX 100PD