スポーツカーメーカー製のSUVマーケットを切り拓いたポルシェ・カイエン。その先駆者もついに3代目へと進化を遂げた。今回はベースグレード「カイエン」と100㎰出力を高めた「カイエンS」の2モデルを比較して、その個性を探った。


REPORT◉高平高輝(TAKAHIRA Koki) PHOTO◉田村 弥(TAMURA Wataru)

 ポルシェ911はもう何台も乗り継いできたから、という経験者がカイエンを選ぶなら言うことはないが、初めてのポルシェにカイエンを選ぶ人の気持ちは正直私のようなオジサン世代には理解できない。せっかくのポルシェなのに、なぜSUVにしなくてはならないのか? とどうしても思ってしまうのだ。SUVが欲しいのなら、今では他にいくらでも選択肢がある。


 


 2002年にデビューした初代はもとより、10年にフルモデルチェンジした2代目も、飛ばせばもちろん高性能ながら、快適性や実用性という点では、あえてカイエンを選ぶ決定的な理由はないと考えていた。しかしながら、911もそうだったように、意地でも無理を通して道理にするのがポルシェというメーカーである。昨年モデルチェンジして3代目に生まれ変わったカイエンは、ボーヴォワールの言葉ではないが、まさしくポルシェになったと言える。


 

 従来型のデザインをほぼ踏襲したボディは若干大型化されているが、ほとんどをアルミ製としたおかげでカイエンSは約65㎏も軽量化できたという。これまでも十分に幅広かったが、全幅が1983㎜とほとんど2m近くにまで広がってしまったのでは、さすがに都市部での使い勝手が心配になる。もっともそれは車体の前後左右を映し出すカメラでカバーしろということかもしれない。


 


 グレードと性能の順列をきちんと揃えて来たこれまでのポルシェの手法通り、3代目のカイエンのパワーユニットも今のところ3種類、明確な差をつけて用意されている。標準のカイエン用3.0ℓV6ターボ(340㎰/450Nm)とカイエンS用2.9ℓV6ツインターボ(440㎰/550Nm)、それにカイエンターボ用4ℓV8ツインターボ(550㎰/770Nm)だ。カイエン用3ℓターボはシングルだが、カイエンS用2.9ℓはパナメーラにも搭載されている高性能版V6ツインターボである。どちらも両バンクの間に排気マニフォールドからターボまでを押し込んだために複雑だが、素早いターボレスポンスとコンパクトさを実現したユニットだ。


 


 どちらもトップエンドでは若干ラフな回転フィーリングを感じるが、低回転から中回転域までの実用域では非常にスムーズで力強く、扱いやすい。トランスミッションは従来同様8速ATを採用、ただしサプライヤーはアイシンAW製からZF製に置き換えられたという。それでもシフトはキレがあり、状況によってはカツン、とまるでDCTのように鋭く変速するので、初めは本当にトルコン式かどうか疑ったほどである。


 

440㎰/550Nmの2.9ℓV6ツインターボを搭載するカイエンS。両バンク間に排気マニフォールドとターボを押し込んだコンパクトなユニットだ。

標準グレードとなるカイエンは3.0ℓV6ターボ(340㎰/450Nm)を搭載する。シングルターボながら十分な動力性能といえるだろう。

カイエンSは積極的に飛ばしたくなるほどだ!

 カイエンSにはオプションのエアサスとリヤアクスルステアが装備されていたが、その効果もあってダイナミックな性能については文句をつけるところがない。飛ばしてもまったく不安ない、というレベルからもっと進んで、積極的に飛ばしたいと感じるSUVは他に類を見ないと言っていい。最近は高性能なライバルが登場してきたものの、リニアなハンドリングでは今やカイエンに一日の長がある。コーナーのイン側にスッと寄って行く自然なターンインは軽快で、しかも妙に突っ張った硬い足まわりと引き換えに得たものではなく、適切にストロークしながらも安定感は高い。その気で踏んでいけば、グイグイ曲がっていくうえに、乗り心地も直進安定性も文句なし、実に自然な身のこなしである。


 


 一方、リヤ操舵システムを持たず、金属バネを備えるカイエンは、カイエンSほどフールプルーフではなく、無理に踏めばアンダーステアが顔を覗かせるが、よりダイレクトで荷重移動に素直に応える伝統的なスポーツカーのように、コントロールしている実感が強いのが特徴だ。ただし、低速でははっきり硬めの上下動が目立つので、乗り心地に関しては速度を問わず快適なエアサスペンションにやはり軍配が上がる。従来型よりも軽くなったとはいえ、カイエンSでは2.2t近い車重のクルマをここまで見事にコントロールできるのはさすがだ。


 

パナメーラと同様のインパネデザインを採用する。センターに配される大型センターディスプレイの視認性はとても良い。

上質なレザーを採用するシートは掛け心地も秀逸だ。

 インテリアは基本的にパナメーラ同様、センターコンソールのタッチスイッチ式コントロールが特徴だ。細かなスイッチがズラリと並んだ従来型よりはずいぶんとすっきりしたが、正確な操作のためには視線を手元のブラックパネルに落とさなければならないのがちょっと不満である。またナビゲーションなどを操作するダッシュ中央のタッチスクリーンも私には使いやすいとは思えないのだが、最近のポルシェは一族挙げてこのインターフェースを採用している。


 

カイエンSの装着タイヤはピレリPゼロ。

カイエンは装着タイヤはBS製デューラーH/Pとなる。

 ローター表面がピカピカの鏡のようなPSCB(ポルシェ・サーフェスコーテッド・ブレーキ)も新型で新たに採用されたものだ。タングステンコーティングのディスクと専用キャリパーを持つブレーキは、耐摩耗性が向上したうえにブレーキダストも発生しにくいという。ただし緩制動時には踏み始めで“カックンブレーキ”になりやすく、ちょっと慣れを要するかもしれない。


 


 例によってカイエンか、カイエンSかという選択は悩みどころだ。確か初代モデルは4.5ℓV8搭載のSでも900万円を切っていたはずだが、3代目は標準のカイエンでも976万円、カイエンSになると本体価格は1288万円となる。さらに無数のオプションを全部足した値段はカイエンで1360万円余り、Sでは何と1900万円を軽く超えてしまっている。高性能にはそれ相応の金額をいただきます、という相変わらずのポルシェ・ビジネスに乗るかどうかが最大の悩みである。




※本記事は『GENROQ』2019年2月号の記事を再編集・再構成したものです。

ポルシェ・カイエン


■ボディスペック


全長(㎜):4918


全幅(㎜):1983


全高(㎜) :1696


ホイールベース(㎜):2895


車両重量(㎏) :1985


■パワートレイン


エンジンタイプ:V型6気筒DOHCターボ


総排気量(㏄) :2995


最高出力:250kW(340㎰)/5300〜6400rpm


最大トルク:450Nm(45.9㎏m)/1340〜5300rpm


■トランスミッション


タイプ:8速AT


■シャシー


駆動方式:AWD


サスペンション フロント:マルチリンク


サスペンション リヤ:マルチリンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:255/55ZR19


リヤ:275/50ZR19


■パフォーマンス


最高速度(km/h):245


0→400m加速(秒):6.2


■環境性能


燃料消費率(ℓ/100km:EU複合モード):9.2〜9


■車両本体価格:976万円
ポルシェ・カイエンS


■ボディスペック


全長(㎜):4918


全幅(㎜):1983


全高(㎜):1696


ホイールベース(㎜):2895


車両重量(㎏) :2020


■パワートレイン


エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ


総排気量(㏄) :2894


最高出力:324kW(440㎰)/5700〜6700rpm


最大トルク:550Nm(56.1㎏m)/1800〜5500rpm


■トランスミッション


タイプ:8速AT


■シャシー


駆動方式:AWD


サスペンション フロント:マルチリンク


サスペンション リヤ:マルチリンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:255/55ZR19


リヤ:275/50ZR19


■パフォーマンス


最高速度(km/h):265


0→400m加速(秒):5.2


■環境性能


燃料消費率(ℓ/100km:EU複合モード):9.4〜9.2


■車両本体価格:1288万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 新型ポルシェ・カイエン試乗に試乗して、3代目はついにポルシェの看板を掲げてもいいSUVになったと確信!