Cクラスがマイナーチェンジでラインナップされるエンジンの多くがリニューアルされた。その中で走り好きが思わず注目してしまうのが、エントリーAMGともいえるC 43 4マティックだろう。

 以前、日本におけるAMG創設期の頃の尽力者にお話を伺う機会があった。1980年代後半から1990年半ばまでのAMGが徐々に、だが着実に日本のエンスージアストの心をつかむまでの過程は、当時まだ10代だった筆者にとって歴史物語のようで思わず聞き入ってしまった。


 


 その時、聞いたのがC36というW202型CクラスにラインナップされていたAMGの素晴らしさである。280psを発生する3.6ℓ直6を積み、1993年当時、スポーツサルーンとしてすばらしい出来映えだったC36を日本に導入するにあたり、価格競争力を得たいと考えたAMGジャパンは1000万円を切ることを目標に本国と折衝を重ね、ついに目処がたったという。

 軽量でエンジンも爽快に回るC36というAMGで、それまでとは違うスポーツイメージを日本でも浸透させられるとAMG担当者は思ったに違いない。ところが日本での導入間際になって、その価格が間違っていたと本国から連絡があり、値上げしたいと言われたという。だが、そこで担当者は「カタログも作ってしまっているし……」と粘りに粘り、最終的にその価格で販売してしまった。


 


 あれは一番お買い得なAMGだったと今でも思いますね、という日本におけるAMG史の証人の話を聞いていて、そんなクルマに乗ってみたい! と思ってしまった。前置きが長くなったが、短時間だがC 43 AMGに乗る機会があって、そんな話をふと思い出したのである。

 C 43はC 63、C 63 Sの下位に位置するエントリーAMGサルーンだ。もはや環境と効率を考えて行くと、すべてのエンジンがダウンサイジングターボにならざるを得ないのだが、このC 43もやはり3.0ℓV6ツインターボである。AMG GTよりもやんちゃでは? と思わせるC 63 Sの4.0ℓV8ツインターボには過去に試乗したことがあったが、C 43は機会がなかった。


 


 その3.0ℓV6ツインターボエンジンはやはり始動時の排気音も勇ましいAMGらしさがあった。前述のとおり先日のマイナーチェンジでCクラスのほとんどがエンジンをリニューアルしたというが、このC 43もまたターボの大型化や制御の改良で、最高出力が23ps向上し、390psを得たという。ちなみに最大トルクは据え置きの520Nmだ。前期型の経験がないので比較はできないが、車検証で1710kgの車重には充分な性能だろう。

カジュアルなエントリーAMG

 さっそく長野の山道を走らせる。そもそも520Nmの大トルクで坂道を駆け上がると上りも平坦な道も関係ない感じだが、AMGドライブコントロールスイッチを操作して、スポーツプラスを選択するとエンジンマネージメント、シフトスケジュール、サスペンション、ESPのセッティングが変わり、排気音も一段と勇ましくなって上り坂が下り坂に変わる。通常はコンフォートだが、スポーツ方向はスポーツ、スポーツプラス、レースなど選択肢が豊富だ。


 


 9速のトランスミッションはすばやく変速して、常に燃費とパフォーマンスの最適なところにシフトしてくれる。ドライブコントロールスイッチでモードを変えなくても、アクセル操作だけで、変速ロジックを変えていく気の利いた9Gトロニックは、やはりメルセデスの魅力の中で重要な柱であると再認識した。

 あれこれモードを試しながら走る。乗り心地は全体的にゴツゴツと硬めで、やや前時代的なスポーツサルーンを感じさせるのが少し残念。コンフォートモードではもう少し柔らかくなるといいのだが、この乗り味は演出含みといったところだろうか。


 


 インテリアは最新の12.3インチデジタルメーターパネルや10.25インチのセンターワイドディスプレイで未来感抜群。間違いなく2020年まで古さを感じずに済むだろう。試乗車には素のCクラスでもオプションで選択可能なスポーツシートが装着されていた。サイドサポートが張り出たホールド性の高い形状で、硬めのレザーシートは走るにはいいが、これまたそんなに快適ではないかもしれない。



 乗る前にイメージした軽快なC36とはちょっとイメージが異なるが、それでも現行型C 63(1211万円)と較べれば、リーズナブルな1000万円ぎりの940万円。AMGの称号を持ってはいるが、あくまでカジュアル版AMGといった印象だ。なお今回のドライ路面の一般道ではほとんど恩恵を受けなかったが駆動方式は4WDである。それでいてRWDのC 63よりも200万円以上安く買えるのなら、1993年頃と同様にまずはお試しのAMGとして、検討してみてもいいかもしれない。



SPECIFICATIONS


メルセデスAMG C 43 4マティック


■ボディサイズ:全長4714×全幅1810×全高1440mm ホイールベース:2840mm ■車検証重量:1710kg ■エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ 圧縮比:10.5 総排気量:2999cc 最高出力:287kW(390ps)/6100rpm 最大トルク:520Nm(53.0kgm)/2500〜5000rpm ■トランスミッション:9速AT ■駆動方式:AWD ■タイヤサイズ:F225/40R19 R255/35R19 ■車両本体価格:940万円

情報提供元: MotorFan
記事名:「 メルセデスAMG C 43 4マティックはAMGの民主化だ!