春の陽気、新年度の行事もひとわたり終わり、今日からいよいよ大型連休。心もはなやぎますね。

GW中はさまざまな場所で寄席が開催されています。在宅派の人も、どんな噺がかかっているかネットで調べて、気軽にちょいと!寄席をのぞいてみてはいかかでしょうか。

「寿限無」「時そば」と並んで最も有名な古典落語のひとつといえる「饅頭(まんじゅう)こわい」。

誰にでも親しみやすくわかりやすい、それは「桃太郎」や「浦島太郎」と同じく、日本の民話的な落語と言われています。

GWの初日である今日は、高座にかけられる機会も多い人気の一席、「饅頭こわい」をご紹介しましょう。


怖いもの談議に花が咲き……

町の若い衆が集まって、無駄話をしています。たまの休み、一杯やりたいところですが、そんな金はなし。

仕方なく渋茶をすすっていると、泡を食って駆け込んできたのが留(とめ)。路地を抜けるところで塀の下から青大将が出てきて、腰を抜かしたと言うのです。

この留は長いものを見るとぞっ、とする。ミミズにウナギ、ドジョウ……そば、うどん……。長いものついでに、褌(ふんどし)もしめない。

ここで場は「怖いもの談議」で盛り上がります。

「ナメクジ」「カエル」「クモ」「おけら」「アリ」「馬」……。

「馬なんざあ、馬車だの荷車引いて、始終往来を歩いてるじゃねえか」

と問われれば、

「ずいぶん大きな鼻の孔(あな)だ。あの鼻の孔へ吸い込まれやしねえかと思うと、ぞっとするね。それにあれは蹴とばすだろう?」

なんでも、今の女房と一緒になってから、なにかあるたびに女房に蹴とばされ、以来、馬を見るたびに怖くなったのだそう。

「そりゃ、馬よりもかかあの方が怖いんじゃねえか」

と突っ込まれる始末。なんとも、のどかですね。

そこへ、話題に加わろうとせず、そっぽを向いて煙草ばかりふかしている松。

仲間に入れようと、場のひとりが

「おまえはなにが怖い?」とふれば……。

青大将……見るとゾクゾクしますね


青大将……きゅっきゅっとしごいてハチマキにして、カッポレを踊ってやる

松は、「やかましいやいっ!」と一喝。

いい若い者がヘビが怖い、クモが怖い、アリが怖いの……バカバカしいと蹴散らします。

「いいか、人間は万物の霊長というじゃねえか」

松は威勢のいいことを言います。

青大将……きゅっきゅっとしごいてハチマキにして、カッポレを踊ってやる

クモ……2、3匹つかまえてきて、納豆のなかに叩き込んでかき回し、納豆が糸を引いてうめえ

アリ……赤飯を食うときにゴマの代わりにパラパラとかける

馬……図体は大きくたって了見は小せえ。食えば桜肉といってオツなもの

そのうえ、

「四つ足で怖いものなんざひとつもねえんだ。四つ足ならなんだって食っちまわ」

と大見得を切ります。そこまで言うならと、

「そこにある炬燵櫓(こたつやぐら)、あれをひとつ食ってみてくれ、四つ足ならなんでも食うと言ったろ、さあ食え」

すると、

「食って食えねえことはねえが、ああいう、『あたる』もんは食わねえ」

と見事にかわします。これでは場の収まりがつきません。

「みんな怖いものがあると言うんだから、たとえ怖いものがないにしろ、なにかひとつ怖いものを言いなよ」

今でいうなら「空気を読め」というところでしょうか?

それでも「ねえものはねえ」と言いはる松。と……やりとりの挙句に、

「……ああ、とうとう思い出しちゃった」

「なんだ」

「いや、これだけは言えねえ。思い出すだけでもぞっとする」

押し問答の末に松が告白します。

「おれの怖いのは、饅頭っ」

納豆に入れると糸を引く……?


饅頭屋の前を、目をつぶって逃げ出す

「じゃあ、なにかい、往来を歩いていて、ぽっぽっと湯気の立っている饅頭屋の前を通るときは困るだろう」

「もうたまらねえから、目をつぶって逃げ出すんだ。法事で饅頭の配り物に出くわすが、あの中に饅頭が入っていると思うと、ぞっとするね……」

話しているうちに気持ちが悪くなったと、松は三畳間で横になることになります。

残った一同、「これは耳寄りな話じゃねえか」と喜びます。皆をバカにしてひとり強がる松に、ひと泡吹かせようということで意見が一致したのです。

「うんと饅頭を買ってきて、あの野郎の枕元へずらりと並べてやろうじゃねえか」

そうして、葛(くず)饅頭、唐饅頭、蕎麦(そば)饅頭、田舎饅頭、栗饅頭……と、それぞれが持ち寄った饅頭で、松の枕元には饅頭の堤(つつみ)ができてしまいました。

「じゃいいかい、起こすよ。おう、松兄、おい松っ……」

起こされた松、「怖い怖い」と言いながら、「怖いから食べてしまえ」と、次々に饅頭を頬張ります。ここでようやく、松に一杯食わされたと気づく一同……。

「てめえの本当に怖いのはなんだ?」

「へへへ、あとは、お茶が怖い」


アナログな落語の魅力

ストーリーと落ちがわかっていても、ニヤニヤしながら笑ってしまいますね。

話芸と仕種で見せる落語は、アナログな世界。ITの落語は、想像できませんね。

この「饅頭こわい」にはさまざまなバージョンがあり、30分以上の大ネタになることも。

また、ネットの動画で気楽に見る(聴く)こともできます。立川談志、柳家喬太郎、古今亭志ん生……の「饅頭こわい」を見比べ(聴き比べ)てみるのも楽しいかもしれません。

IT時代に再燃した落語ブーム、連休にふらりと寄席をのぞいてみるのもいいかもしれませんね。

空前の落語ブーム

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 童話にもなった古典落語──「饅頭(まんじゅう)こわい」