人間は自然の一部であり、人間が自然現象に予報段階で線引きをするのは難しい側面があります。梅雨の期間は、昨夏のように9月に発表される確定値で大きく変更されることもあり、梅雨明け速報発表=雨の季節の終わりとは捉えず、台風シーズンが続く10月頃までは大雨への備えを怠らないようにして下さい。

●梅雨の速報値と確定値

梅雨入りや梅雨明けの発表は、気象庁が現在までの天候経過と1週間先までの見通しをもとに、気象情報の一種の「梅雨の時期に関する気象情報」として「速報値」を発表します。その後、9月には春から夏にかけての天候経過を改めて振り返り、梅雨入りと明けの時季を確定させる作業を行い、これを「確定値」として改めて発表しています。

近年の北陸地方では2012年、2013年、2015年のように、9月の確定値発表時に「実はあの時まだ梅雨は明けていなかった」という事例や、2021年や2022年のように「実はあの時既に梅雨入りしていた」事例が複数確認されています。

梅雨の時期の検討は、気象庁の予報官にとって最大の憂鬱と称されることもあります。1951年からの統計では、北陸地方で梅雨明けが特定できない年が、4回ありました。事後にじっくり精査して特定できないとされた年であっても、速報段階では、必ず日付を決めることが求められるのです。そこには、自然の一部である人間が、自然現象に線引きすることを求められる難しさが常につきまといます。

●過去20年のうち確定段階で何らかの修正がなされたのは16回

皆様の記憶に新しい2022年の梅雨明けは、当初、速報値で6/28日頃とされていました。しかし、9月の確定時には「特定できない」とされ、統計史上初の6月の梅雨明けと過去2番目に短い梅雨は幻に終わりました。

2021年以前を確認すると、2008年の梅雨明けは、当初7/19頃とされていましたが、確定段階では8/6頃と大幅に修正された事例があります。その他の年については、「入り」や「明け」の両方の確定値が速報値と同じだったのは、2019年、2010年、2007年、2006年の4年のみ。あとの16年は、何らかの修正が行われていたことになります。

中でも注目すべきは、確定値で速報値との日数差が赤文字になっている年です。これは、実際の梅雨の期間が速報値の期間より長かったことを示しています。ですから、梅雨「入り」や「明け」の速報発表をもって、雨の季節が「始まる」or「終わる」の解釈をするのは望ましくなく、5月頃から台風シーズンの終わる10月頃までは、出水期として雨に対する備えを怠らないようにすることが大切です。

●梅雨明け日を基準とした夏の高気圧の盛衰 梅雨明けの速報発表があっても短期的な大雨に注意

図は、2003年~2022年の梅雨明け日を基準とした、夏の高気圧の盛衰を丸い点で示し、実線は、主な年の高度場変化を示しています。5880m以上の領域に覆われ、安定した夏空がある程度続くことが、梅雨明けの目安となっています。図の下の凡例の年の後ろに括弧書きで記載されているのは、梅雨明け日の確定値を示します。

実線の傾きより、梅雨明け後の太平洋高気圧の盛衰は、年毎に異なっているのが分かります。

2003年、2008年、2011年は、エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常年で、梅雨明け以降、徐々に夏の高気圧が勢力を弱めていることが分かります。同様にして2004年、2013年の平常年は、高気圧の勢力はほぼ横ばい、2007年や2020年のラニーニャ年、2019年の平常年は高気圧は更に勢力を増しています。ラニーニャ現象発生時には、夏は太平洋高気圧が北に張り出しやすくなる傾向があるとされ、2007年や2020年はそれに対応しているようにも思えます。

本日7月20日、新潟地方気象台は、北陸西部の福井・石川・富山と北陸東部の新潟の4県を対象とした「北陸地方の向こう1か月の天候の見通し」を発表しました。これによると、今後は平年同様に晴れの日が多く、降水量はほぼ平年並みと予想されています。ただ、仮に梅雨明けの速報が発表されても、引き続き短期的な大雨には十分注意し、自宅周辺の側溝など、排水が問題なく行われることを定期的に確認しておくようにしましょう。

情報提供元: tenki.jp日直予報士