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これまでの米国の民間消費の強さは、実質総賃金の伸びによってけん引されてきましたが(この点については当レポート先週号で触れたように、パウエルFRB議長も指摘しています)、10月は雇用統計が弱めの内容になったことで、この伸び率が鈍化した可能性が出てきました。
インフレ率(PCEデフレーター)の伸び率が未公表であることから、現時点では2023年10月分の伸び率を計算することはできませんが、仮にPCEデフレーターの前年同月比での上昇率を、前月(9月)と同様の3.4%とすると、10月の実質総賃金の前年同月比での伸び率は1.5%と、9月の2.1%からかなり減速したことになります(図表2)。この減速をもたらしたのは、名目賃金上昇率の伸びの鈍化と失業率の上昇でした。個人ローンの金利が直近で大きく上昇し、かつ、金融機関の貸出態度が徐々に厳格化の度合いを強めているとみられることを踏まえると、マクロ所得の減速の中、10月は民間消費の伸びが鈍化した可能性が高いと考えられます。
今後は、米国景気の強さにさらに陰りがみられる状況となり、それがグローバル金融市場における地合いを変化させていくと予想されます。実質総賃金の増加ペースは、ある程度の振れを伴いながらも、さらに鈍化する公算が大きいとみられます。振り返ってみると、夏場以降は、FRBの高金利政策が長期化するとの懸念が強まり、長期金利の上昇基調が継続してきたことで、債券投資家は「債券価格は下げ止まらないのでは」という恐怖感を抱き、それが長期金利の上昇をもたらすという展開が続いてきました。今後、民間消費や設備投資の減速による需要の鈍化がインフレ率の緩やかな低下をもたらすことで、FRB政策のハト派化が織り込まれ始めるとみられます。それが債券投資家の間での「恐怖感」を薄れさせ、米長期金利の低下につながっていくとみられます。
景気が悪化する可能性が高まることは、それ自体としては、株価押し下げ要因となります。しかし、米国株式市場では、景気減速によるある程度の業績悪化は、既に現在の株価に織り込まれているとみられます。短期的には、業績悪化による株価押し下げの圧力を、FRBのハト派化への期待感による株価押し上げ圧力が上回る形で、株価が上昇する可能性が高まっています。
一方、米国景気が実際に悪化する中では、景気敏感株には関心が集まりにくくなることから、今後の短期的な株価上昇を先導するのは、グロース株になる可能性が高いと考えられます。景気悪化の中でも、事業活動において何らかの強みを有する企業は、足元での利益の好調さや将来の成長性に対する期待が高まることが多く、そうした銘柄を選別して投資することがこれまで以上に重要になると見込まれます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2023-178
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