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ユーロ圏のPMI(購買担当者指数)をみると、製造業が足元まで悪化を続ける一方で、サービス業が直近で低下したとはいえ、中立水準の50ポイントを上回る拡大圏にあることがわかります(図表2)。製造業の業況が悪化しているのは、巣ごもり需要の剥落によって最終需要が低迷する中、ゼロコロナ政策の撤廃によって中国におけるサプライチェーンが正常化したことから供給が想定外に増加し、グローバルな在庫調整が進行していることを反映したものと思われます。このため、これは必ずしもユーロ圏の景気の弱さだけを反映したものではありません。サービス業のPMIが50ポイントを大きく上回っていることを踏まえると、ユーロ圏の景気はそれほど悪いわけではないと判断できます。
政策金利が大幅に引き上げられたにもかかわらず景気がそれほど悪化していない背景には、政策金利の引き上げが実体経済に及ぼす悪影響が顕在化するまでには1年~1年半程度を要するという点があるのかもしれませんが、もう一つの可能性として、実質ベースでみると政策金利が経済活動を抑制するほど高くなかった可能性があり、それについて考えてみたいと思います。分析のフレームワークとしては、当レポートの6月29日号(「実質ベースでFFレートを展望」)で用いたのと同じ手法を用いて政策金利による景気抑制度を算出しました。この際、政策金利である主要リファイナンスレートの見通しについては6月に実施された市場関係者向けのECB調査に依拠しました。また政策金利を実質化するにあたっては、ECBが公表している1年先の期待インフレ率のデータを用いました。試算値は図表3の通りですが、ECBの政策金利は現時点でも景気サポート的なままであることがわかります。これは、足元で景気が比較的底堅い点と整合的です。一方、2023年末頃から2024年末ごろにかけてはかなり景気抑制的になる見通しであるとの試算結果となりました。高めの実質政策金利による景気への悪影響が一定のラグ(時間差)を経て顕在化しやすいことを考えると、この点は、2024年のユーロ圏景気が金融市場の想定ほどには回復しないリスクの存在を示唆していると言えるでしょう。
他方、米国についての試算値は、図表4の通りですが、今後のFFレートが6月のFOMCで示された経路通りに推移する場合には、2024年を通して景気に対して抑制的な影響が及ぶものの、6月時点のNY連銀調査によるコンセンサス見通し通りにFFレートが推移すれば、2024年後半における景気抑制度は限定的であることがわかります。米国とユーロ圏を比較すると、2024年についてはユーロ圏の金融政策運営が米国よりも引き締め的になる可能性がうかがわれます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2023-106
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