■本研究成果は、近日中に米国化学会が発行する英文誌Journal of the American Chemical Society に掲載されます(2月27日付けでオンライン版には掲載されています)。なお、本研究の一部は、JSPS科研費JP26288040、JP18K05418、JP19K05076の助成を受けたものです。
チオフェン(図1左)は、ベンゼンと同様に自然界にも存在する環状分子で、チオフェンを直線状に連結した導電性の高分子化合物(オリゴチオフェン、ポリチオフェン)は、発光ダイオードや有機EL、電界効果トランジスタ、太陽電池など、幅広い用途に応用できます。このようなチオフェンの機能を更に拡張するために、今回6個のチオフェンを環状に連結した6T4A-4Bu(図1右)リング型分子を合成し、酸化処理を施したときの分子特性を詳しく調べました。酸化処理により分子内の電子が1個だけ不足したラジカルカチオン注5)の状態にすることで、新しい磁気的・電気的な特性が現れることを期待しました。光吸収注6)や電子スピン共鳴注7)、磁気円偏光二色性注8)などの各種測定の結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは溶液中で2個の分子が組み合わさったダイマー注9)を形成することが分かりました。溶液から結晶を作り、大型放射光施設SPring-8注10)でのX線回折注11)により結晶構造を調べた結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは結晶中で図2 ① に示す二重ドーナツ型の巨大超分子を形成することが分かりました。分子リング内部に取り込まれた小分子(CH2Cl2)の磁界中の挙動を核磁気共鳴注12)で調べたところ、通常よりも高い磁界に対して共鳴吸収を示しました。この結果を理論計算で解析することで、6T4A-4Buのラジカルカチオンは、分子内の70個もの共役π電子注13)により、磁界中で6個のチオフェンでできた分子リングに沿って回転するように電気が流れる環電流注14)特性を示すことを明らかにしました(図2 ②)。この特性は、6T4A-4Buの二重ドーナツ型分子が1ナノメートル(10億分の1メートル)程度の大きさの超分子コイルとして働くことを意味します。
“Preparation, Spectroscopic Characterization and Theoretical Study of a Three-Dimensional Conjugated 70 π‑Electron Thiophene 6‑mer Radical Cation π‑Dimer”