【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。

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2月5日、ブリンケン米国務長官が中国の楊潔チ・外交トップと電話会談したが、中国側発表では、「一つの中国」原則を遵守するとブリンケン氏が言ったとのこと。米側発表にはない内容だ。もし言ってないのなら、なぜブリンケン氏から反論がないのか?


◆アメリカ側の公式発表
まずアメリカ国務省の公式発表を見てみよう。公式発表では、ブリンケン国務長官は以下のよう主張したとなっている。

新疆ウイグル自治区やチベット自治区および香港を含めて、アメリカは人権問題と民主的価値を支持し続けると強調した。
ミャンマーの軍事クーデターに関して、中国も国際社会とともに非難するよう迫った。
アメリカは同盟国や友好国と連携して、我々が共有する価値観や利益を守るために協力し、台湾海峡を含むインド太平洋地域の安定を脅かし国際秩序を弱体化させている中国に説明責任を負わせることを再確認した。

◆中国側の公式発表
一方、中国側はこの「同じ電話会談」の内容を、どのように発表したのか。別の会談に関する発表ではないかと思われるほど、かなり異なる会談内容を発表しているのでご紹介する。

以下は中国外交部の公式発表による楊潔チ・中共中央政治局委員兼中央外事工作委員会弁公室主任の発言内容である。あまりに長いので、重要でない部分(中国に対する誇張的自画自賛)に関しては省略し、肝心な部分の概要をご紹介する。

一、中米関係は正念場を迎えている。中国はアメリカが過去一定期間において犯してきた過ちを正し、中国とともに不衝突・非対抗の精神を堅持し、相互尊重とウィンウィンの精神に基づいて協力し、相違点を調整して、米中関係の健全で安定した発展を促進するよう促した。

二、中米両国は互いの核心的利益と各自が選択した政治制度を尊重し、各自が自国の事に専念すべきである。中国は揺ぎなき決意で中国の特色ある社会主義の道を貫き中華民族の偉大なる復興を実現する。いかなる人もそれを妨げることはできないと強調した。

三、台湾問題は米中関係の中で最も重要で敏感な核心的問題で、これはあくまでも中国の主権と領土保全の問題だ。アメリカは何としても厳格に「一つの中国」原則と「中米三つのコミュニケ」を守らなければならない。香港・ウイグル・チベットに干渉することは、すべて中国への内政干渉だ。中国はいかなる外部勢力による干渉も認めない。中国を侮蔑中傷する試みは全て失敗するだろう。中国は国家主権と安全と発展と利益を断固として守り続ける。

四、世界のすべての国が守るべきは、国連を核心とした、国際法に基づく国際秩序であり、国連憲章の目的と原則を核心とした国際関係の総意であって、決して一部の国が言うところのルールに基づく国際秩序ではない。

五、「アメリカはアジア太平洋地域の平和と安定のために建設的な役割を果たすよう」(ブリンケンに対して)促した。ミャンマー情勢に関しては(内政干渉をしないという)中国の立場を表明し、国際社会がミャンマー問題の適切な解決のための良好な外部環境を構築すべきだと強調した。

六、ブリンケンは、「米中関係は両国および世界にとって非常に重要だ。アメリカは中国とともに(協力しながら)安定的で建設的な両国関係を発展させていきたい」と言った。ブリンケンはさらに「アメリカは今後も『一つの中国』政策を引き続き推し進めていき、かつ三つのコミュニケを必ず遵守していく。この政策に関するアメリカの立場は変わっていない」と繰り返し述べた。

七、双方は、中米両国関係や共通の関心事である国際的・地域的な問題について、今後も緊密な連携と意思疎通を維持することに合意した。

◆ブリンケンは本当に「『一つの中国』原則を遵守する」と言ったのか?
米中それぞれの発表内容には、相当な違いがある。まるで別の電話会談の発表を見ているようだ。もちろん、米中双方の政府による公式発表なので、自分がどれだけ「素晴らしいことを言ったか」に関しては、当然誇張するだろうことは考えられる。

しかし各政府の公式発表で、もし「相手が言ってないこと」を「言った」と発表していたとしたら、「私はそのようなことは言っていない」と、すぐさま抗議するのが、政府としての本筋だろう。

おまけにそれが、米中間の核心的問題であり、今後のアジア情勢に大きな影響を与える内容であるなら、ここは白黒を付けなければならない重要なポイントとなる。

然(しか)るに、ブリンケンは中国側の発表である「六」に反論しているだろうか?

少なくとも筆者が知る限りにおいては、ブリンケン側から「中国の発表は間違っている。私はそのようなことは言っていない」という抗議をしていないように思われる(もし情報が拾い切れていない場合は謝罪するが、いまこのコラムを書いている時点では、そういう抗議はないように思われる)。

なにしろ、トランプ政権ではあんなにまで台湾を擁護し、トランプ前大統領は「一つの中国は認めない」と宣言する勢いのところまで来ていた。

バイデン大統領も対中政策に関しては、激情的な言動を別にすれば、トランプ路線を受け継ぐと宣言しており、今もまだ主要国の中で習近平国家主席とだけは電話会談をしていない。また2月4日には、中国を「最も重大な競争相手」と位置づけ、安全保障や人権問題に関して対中強硬を続けていくことを強調している。

しかし、本当にそうだろうか?

◆バイデン政権の本音は?
もしブリンケンが楊潔チとの電話会談で「一つの中国」原則を遵守しますと言ってないのなら、なぜ反論しないのか?

反論しないところを見ると、本当は中国の外交部ウェブサイトに書いてある通り、ブリンケンは中国に従順な姿勢を見せたのではないのか?

これが実はバイデン政権の本音ではないのか?

もしそうだとすれば、バイデン政権のこのようなダブルスタンダードを看過するわけにはいかない。日本の「習近平国賓招聘」を唱える親中派を喜ばせるばかりだ。

しかし今後のアジア情勢にとって、これほど大きな盲点はない。

日本の大手メディアも(私の知る限りでは)、この点を突いていないように思われる。

徹底して究明し、明らかにさせていくべきではないのだろうか。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

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情報提供元: FISCO
記事名:「 バイデン政権の本音か? 米中電話会談、「一つの中国」原則に関する米中発表の食い違い【中国問題グローバル研究所】