【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

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新型肺炎の感染拡大を防ぐために安倍政権は試行錯誤的対策を小出しにしているが、先月末の「基本方針」で中国人の全面入国規制をしなかったことは多くの国民を失望させた。安倍首相は未だに習近平国賓訪日にこだわり日本国民の生活を混乱させている。

◆安倍首相、中国外交トップに「習近平国賓訪日、極めて重要」
中国共産党政治局委員で中央外事工作委員会弁公室主任の楊潔チ氏は2月28日、首相官邸で安倍首相と会談した。全ての日本国民をここまでの恐怖と不安に陥れ、日常生活もままならない状況に追い込んでおきながら、安倍首相は今もなお習近平国家主席を国賓として日本に招聘することを諦めていない。

安倍首相は会談で習近平国家主席の国賓訪日に関して「両国関係にとって極めて重要だ。十分な成果を上げるために入念な準備をしなければいけない」と強調している。

2月29日付けの中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」は安倍首相のこの言葉をそのまま使い「日本首相安倍晋三:習近平の今年の訪日は極めて重要」(※2)という形で報じている。もともとの紙ベースの「人民日報」(2020年2月29日 第三面)のタイトルは「日本首相安倍晋三、楊潔チと会見」(※3)というタイトルだが、強調したいのは「安倍首相が『習近平の今年の訪日は極めて重要だ』と言った」事実なので、電子版では安倍首相のこの言葉を見出しにしたものと推測できる。

2月28日付けの中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」も「日本首相安倍晋三楊潔チと会見」(※4)というタイトルではあるが、文中で同様に「安倍は『習近平主席が今年日本を国事訪問(国賓として訪問)することは極めて重要』と表明した」と報道している。

要は「コロナで失敗を重ねた習近平だが、日本の安倍首相がこんなにまで熱烈に会いたいと言ってきているのだから、国際社会は習近平を批判してはいない。むしろ歓迎している」と中国人民に言いたいわけで、日本は又もや中国共産党による一党支配体制維持のために手を差し伸べているのである。
一方、2月29日夜には、習近平の国賓としての来日は9月に延期される模様との日本側報道があった。中国では日本の報道の転載はあっても、中国側の報道はない。

◆体を成していない日本の「国家としての統治」
2月20日のコラム<習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」>(※5)に書いたように、1月30日のWHOの緊急事態宣言を受けながら、安倍政権が中国人の入国規制に関して湖北省から来た中国人のみしか対象としなかったのは、4月に習近平を国賓として日本に招くつもりがあったので、習近平を不機嫌にさせてはならないという忖度が働いたのだろう。

それでも日本での新型コロナウイルス肺炎患者が激増していくのを受けて、2月12日にやっと浙江省を入国規制対象に加えた。中国では全土に新型肺炎患者が分散しているので、浙江省などを一つ加えてみたところで如何なる役にも立たないことは2月23日付のコラム<国民の命は二の次か? 武漢パンデミックを後追いする日本>(※6)で述べた通りだ。

次に2月25日に、新型肺炎のさらなる感染拡大に備えた対策の「基本方針」を日本政府は発表したが、驚くべきことに、事ここに至ってもなお、安倍首相は中国からの全面的な入国禁止に踏み切ることをしていない。これはつまり、湖北省と浙江省以外からの中国人は、空港で自動的にチェックされている体温測定にでも引っかからない限り、自由に日本に入国できることを意味する。個人観光は言うに及ばず、春節を終えて日本の大学に戻ってくる中国人留学生や新たに日本の大学を受験する中国人受験者をどうするかに関しても、大学が各自判断するという、現場の「自己責任」に押し付けているのである。もちろん日本の入管が一律、再入国あるいは新規入国を不許可にするということもしないのが日本だ。

期待した「基本方針」は、日本人が日本における集まりや勤務あるいは通学、受験などに関しても、各組織が判断するという「自己責任」を日本国民に押し付けただけに終わった。

「自己責任」にしながら検査はしないというあり得ない現状に対する国民の不満が噴出すると、今度は大学を除いた教育機関の一斉休校を突然言い出すなど、とても「国家の統治」が成されているとは思えないような「行き当たりばったり」の右往左往を続けている。習近平への忖度の方を重んじて、最も感染源として警戒しなければならない中国各地からの入国に対しては規制をかける勇気がないのである。

2月20日のワシントン・ポスト(※7)も“Critics said Abe appeared keener to avoid offending China ahead of a visit by President Xi Jinping planned for April than tackling the problem head on.”(「安倍は目の前にある差し迫った問題に取り組むよりも、4月に計画されている習近平の訪日を前にして、ともかく中国を不愉快にさせてはならないと必死なのである」と多くの評論家が言っている)と書いているくらいだ。

アメリカのメディアにも、ちゃんと見透かされているではないか。習近平との蜜月を演じてきたロシアのプーチン大統領でさえ、自国民を守るためには「中国人を一切入国させない」という、アメリカ並みの冷徹な手段を断行しており、軍事同盟がある北朝鮮もまた、中国人入国を禁止している。

その国に対する評価の是非を別として、少なくとも自国民を守るという面においては、この「冷徹なほどの毅然さ」は絶対不可欠だ。

安倍首相にはそれができない。これでも「独立国家」なのかと情けなくなる。習近平に「一つの中国」を絶対遵守しますと誓い、絶対に独立を認めませんと安倍首相が習近平に対して宣誓しているあの台湾でさえ、自国民を守るために、なんと決然とした選択をしていることか。

(『中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」(2)【中国問題グローバル研究所】』へ続く)

(本論はYahooニュース個人からの転載である)
写真:ロイター/アフロ

※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/
※2:http://js.people.com.cn/BIG5/n2/2020/0229/c359574-33838601.html
※3:http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2020-02/29/nw.D110000renmrb_20200229_6-03.htm
※4:http://www.xinhuanet.com//asia/2020-02/28/c_1125641093.htm
※5:https://grici.or.jp/916
※6:https://grici.or.jp/926
※7:https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/japans-coronavirus-response-on-cruise-ship-completely-inadequate-says-health-expert/2020/02/19/881e7218-5150-11ea-80ce-37a8d4266c09_story.html



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情報提供元: FISCO
記事名:「 中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」(1)【中国問題グローバル研究所】