*13:19JST イノベーション Research Memo(9):中期経営計画の達成年度を2026年3月期へ1年後ろ倒し ■今後の見通し

2. 中長経営計画の進捗状況とList Finderの価格改定
イノベーション<3970>は2023年6月28日に発表した「事業計画及び成長可能性に関する事項」において、中期経営計画の業績目標の変更を行っている。これはITソリューション事業におけるアライアンス進捗の遅延、金融プラットフォーム事業における仕組債の問題などを受けた市場停滞の影響などから当初の業績目標と実績に乖離が発生したことによるものである。従来の中期経営計画では2025年3月期を最終年度とし、売上高8,300百万円、営業利益1,840百万円を目指していたが、同社では達成年度を1年間先送りとし、2026年3月期にこの財務目標の達成を再度狙う。また、全体の売上高、営業利益の数値目標に変化はないが、事業別ではITソリューション事業の売上高、営業利益目標を引き下げる一方、オンラインメディア事業の目標は引き上げた。金融プラットフォーム事業は従来計画から売上高、営業利益ともに変更はない。

(1) オンラインメディア事業
新たな中期経営計画では、オンラインメディア事業の売上高は2025年3月期に前期比10.9%増の4,580百万円、2026年3月期に同10.3%増の5,050百万円と約10%の増収基調が続くことを前提としている。2024年3月期はオンライン展示会の開催数が1回のみとなったことで売上成長の端境期となっているが、2025年3月期からは再び成長軌道に回帰する見通しである。主力の「ITトレンド」において同社は2023年春に値上げを実施したが、顧客に対しての価格浸透も順調に進んでおり、2024年3月期からオンラインメディア事業の利益率がそれまでと比べて上昇することも期待される。今後、ITトレンドが安定して10%程度の成長率を確保できれば、中期経営計画における売上高、営業利益目標の達成についてはこれまでの事業モデルの延長戦上でも十分視野に入ると弊社では考えている。

(2) ITソリューション事業、List Finderの価格改定
ここ数年で業績の停滞感が続いていたITソリューション事業について、中期経営計画では最終年度の2026年3月期に売上高970百万円、営業利益490百万円、営業利益率が50.5%へと大幅に上昇する計画となっている。この成否の大きな鍵を握るのは2024年6月より実施予定のList Finderにおける価格改定であろう。中期経営計画の発表時点ではこの利益率上昇の具体的な施策について同社は公表していなかったが、2024年3月27日に発表された「『AIサポート機能』リリースと価格改定のお知らせ」において、Chat GPTを活用したメール・記事コンテンツの作成をサポートする「AIサポート機能」の実装とともに、月額料金の改定についても同時にリリースした。

月額料金については、同社ではライト、スタンダード、プレミアムの3タイプを従来から用意しており、ライトは39,800円から45,000円へ、スタンダードは59,800円から69,000円へ、プレミアムは79,800円から92,000円へとそれぞれ引き上げられることになる。引き上げ幅はライトが13.1%、スタンダードが15.4%、プレミアムが15.3%となっており、2024年6月1日以降の契約更新月から新価格が適用される見通し。全ての既存契約が新契約へ切り替わるのは2025年6月以降となることから、価格改定による業績寄与は2025年3月期第2四半期以降で段階的に発現し、2026年3月期にかなりの部分が寄与しよう。SaaSプロダクトにおける価格引き上げは粗利率の改善に直結することから、中期経営計画におけるITソリューション事業の営業利益率の大幅な上昇を2026年3月期に見込んでいると推測される。

ただし、同社のList Finderの価格改定が目論見通りに成功するか弊社は現時点ではやや懐疑的な見方である。直近で複数のSaaSベンダーがサーバーコストの増大などを背景として値上げに踏み切るケースが散見されるが、顧客からの解約率の上昇を招かずにうまくいく共通項として、(1)ユーザーあたり月額料金が数百円から数千円程度の場合が多く、とりわけ課金額の絶対値が低い方が値上げになっても顧客に受け入れられるケースが多い、(2)当該SaaSプロダクトの新規ユーザー獲得が値上げ直前まで高成長していることに加え、チャーンレートが非常に低い、(3)当該SaaSプロダクトが顧客のインフラ、デファクトスタンダードとして既に深く浸透しており、他プロダクトへのスイッチングに伴う目に見えないコストが非常に高い、(4)事前に顧客に対して値上げをしても契約更新をするかどうかについての入念なヒアリングを実施しているケースが多い、などが挙げられる。同社のList Finderは直近で導入アカウント数の獲得が伸び悩んでいることに加え、月額費用についても一般的な他SaaSプロダクトと比較するとやや高価格帯に分類されることから、新価格での契約更新時に解約率の上昇を招かずに顧客へ受け入れられるかを注視したい。

(3) 金融プラットフォーム事業
金融プラットフォーム事業の中期経営計画における数値目標は、目標達成年度を1年間後ろ倒しにしたことを除けば、売上高、営業利益ともに最終年度の目標は不変であり、引き続きIFA事業の体制整備に注力し、当初計画していた金融仲介事業の効率化を進める方針である。また、2024年3月期からは第二弾の事業として、M&A仲介事業も連結に取り込み、IFA事業と同時並行で体制整備、他事業セグメントとの連携強化へ向けた布石を打つ。ただし、短期的なIFA事業の業績動向は株式市場など金融マーケットに大きく影響を受けるため、日銀のマイナス金利解除や今後の利上げ姿勢が打ち出されることで過去の日銀の利上げ局面と同様に株式市場がピークアウから下落へ転じる可能性も十分あり、外部環境が急変したとしても中期経営計画の数値目標を着実に達成できるような体制の強化を迅速に進める必要があるだろう。金融プラットフォーム事業の売上高、営業利益は向こう数年間でかなりの拡大を見込んでおり、ITソリューション事業と同様に数値目標についてはチャレンジングであると我々は考えている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 永岡宏樹)

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情報提供元: FISCO
記事名:「 イノベーション Research Memo(9):中期経営計画の達成年度を2026年3月期へ1年後ろ倒し