以下は、2023年1月19日にYouTubeチャンネル「FISCO TV」で配信された「金ミニ先物と白金ミニ先物の魅力~価格動向と投資戦略~」です。皆さんにとっても馴染みの深い金・プラチナ(白金)に関して投資の観点から、フィスコマーケットレポーター高井ひろえが紹介、3回に分けて配信します。

まず、金からお話ししていきます。金は宝飾品としてのイメージが強いですが、実際、世界の金需要の割合をみると、半分以上が宝飾品として使われています。次に占める割合が高いのが投資です。3番目に高いのは各国中央銀行による外貨準備高です。これは、各国の通貨当局の管理下にある、直ちに利用可能な対外資産のことです。通貨当局が急激な為替相場の変動を抑制するとき、いわゆる為替介入を実施するときや、他国に対する外貨建債務の返済が困難になったときなどに用いられます。各国の中央銀行が持つくらいですから、金が支払手段として非常に高い重要度を持っている証といえるかと思います。

さて、需要割合として2番目に来る投資ですが、実際、金は投資対象としても非常に有名で、特に安全資産の代表格とされていて、株式などのリスク資産との対比で語られることが多いです。安全資産と言われるだけあって、基本的に外部環境の不透明感が強いときに買われやすい傾向があります。具体的には世界経済が景気後退に陥り、企業業績が振るわない時などは株価も低迷しやすいため、金が代替資産として買われやすくなります。また、インフレ、物価上昇が激しい時などは貨幣の価値が下がってしまうため、こうした局面でも価値の変わらない金の需要は高まりやすくなります。そのほか、戦争や米中間の貿易摩擦など、地政学リスクが高まる局面も当てはまります。世界情勢の不透明感が強まるような状況は全般、金価格にとってポジティブに働きやすいと考えてよいでしょう。

それでは、最近の金価格がどのようになっているのかを見てきましょう。こちらは、大阪取引所が扱う金先物の価格を表したチャートです。アメリカの取引所でも金先物は扱われていますが、円建てとドル建ての違いのほか、日本とアメリカの金融政策の違いなどもあり、両者の価格推移は大きく異なります。今回のこの動画では、扱いやすさの観点などから大阪取引所の金先物をメインに話していきます。

改めてチャートを見てみると、2013年以降続いてきた長い横ばい圏から上放れて、2020年以降、価格はぐんぐん右肩上がりに上昇しています。このような大幅な金価格の上昇が起きた要因について、ここからは解説していきたいと思います。
まず、2020年に入ってから価格が大きく上昇し始めたきっかけは、新型コロナウイルスの世界的な広がりでしょう。未知のウイルスによる世界的なパンデミックを前に人々は怯え、株式などのリスク資産は大きく売られました。一方で、安全資産の代表格である金は有事の投資先として需要が高まりました。しかし、ウイルスの全貌が次第に判明し、各国の財政・金融政策による下支えを背景に株式市場が回復してからも、金価格は強い上昇基調を続けました。これは一体何故なのでしょうか。

理由の一つは世界的なインフレが挙げられます。左のチャートは、世界的の商品市況の動きを表す代表的な指数、CRB指数の価格推移を表したものです。2020年は、新型コロナパンデミックによりサプライチェーン(供給網)が混乱し、企業の生産活動が停止しました。一方で、各国で大規模な財政・金融政策が打たれたことで、供給が追いつかない程のペースで需要が高まり、需給の逼迫から記録的なインフレが起きたのです。その後、サプライチェーンの混乱は徐々に解消されましたが、2022年に入ってからのロシアによるウクライナ侵攻により、再びエネルギー・食料品などの分野を中心にインフレが加速しました。ロシアへの経済制裁により、特に原油や天然ガスなどの価格高騰が著しいものとなりました。

右のチャートは日本の国内消費者物価指数の推移を表したチャートです。一目瞭然のように、世界的な激しいインフレは物価の上がらないデフレ大国と言われてきた日本にも波及しました。先ほど申し上げたように、物価上昇は貨幣価値を低下させますから、こうしたインフレの局面においても価値が変わらない安全資産である金への需要が高まったと考えられます。

二つ目に、日本の実質金利の推移が挙げられます。赤色の線は日本の10年物の実質金利を表しています。青色の名目の10年金利から緑色の10年物の期待インフレ率を差し引いて計算されます。これは、名目金利にインフレの影響を加味した、その名の通り、実質的な意味での金利を指します。この実質金利が高ければ高いほど、金利の付かない金にとってはマイナスに作用することになります。しかし、大規模な金融緩和政策が続く日本では、この実質金利が長い間マイナスで推移しています。実質金利がマイナスということは、現金を持っていても実質的な価値が目減りすることを意味します。こうした背景が、金の相対的な投資妙味を高めているといえます。

最後に三つ目として為替の円安が挙げられます。今年は10月にドル円が1ドル=150円を超えるなど、歴史的な円安が起こりました。各国中央銀行がインフレに対応するために積極的に利上げを進める一方、日本の中央銀行である日本銀行は金融緩和を続けたため、金利差が拡大する中、円はドル以外の通貨に対しても大きく売られました。大阪取引所が扱う金先物は円建て取引であるため、こうした歴史的な円安が金価格の割安感を強め、価格の上昇に寄与したと考えられます。

それでは、今後の金価格はどうでしょうか。金価格に影響を及ぼす各要素の観点から一つずつ見ていきましょう。

まず、世界情勢からです。ロシアとウクライナの戦争は継続しており、地政学リスクは高い状態が続いているといえます。また、最近ではアメリカが中国に対して先端半導体の輸出を禁止し、各国にも協力を求めるなどしており、米中間の貿易摩擦も懸念されています。さらに、長期的な観点からは、今後、中国が台湾の併合に動くことも考えられ、最悪のケースでは、台湾の独立を支持する西側諸国との間での軍事衝突も予想されます。こうした世界情勢が不透明な中、安全資産である金の需要は根強く推移すると考えられ、金価格にもプラスに作用するでしょう。

次に景気動向です。2023年は年前半を中心に世界経済は低迷すると予想されています。世界三大経済圏であるアメリカ・中国・欧州の三つから見ていきましょう。中国は、ゼロコロナ政策の緩和が進められていますが、有効性の高い海外製のワクチンの接種率が低いこともあり、規制の緩和を進めるにあたっては感染のリバウンドや社会の混乱が想定され、経済の本格回復には時間がかかる見込みです。欧州はエネルギーのロシアへの輸入依存度が高く、ロシア産エネルギーからの脱却を図るなか、記録的なインフレが長期化しています。このように経済は減速していますが、インフレの抑制を最優先にしている欧州中央銀行(ECB)は今後も大幅な利上げを続ける方針を掲げています。また、アメリカでも、モノのインフレは沈静化してきましたが、逼迫した労働市場を背景にサービス分野のインフレが続いており、物価指標の伸びは依然として高い水準にあります。経済はすでに景気後退入りのサインを見せはじめていますが、米連邦準備制度理事会(FRB)もインフレ抑制を最優先にしており、2023年前半までは利上げを継続、その後も高水準の金利を据え置くと主張しています。こうした中、過剰な金融引き締めが深刻な景気後退を招く可能性が高まっています。このような景気後退への懸念は安全資産である金価格にプラスに作用すると考えられます。
※原稿作成:フィスコアナリスト仲村幸浩


—金ミニ先物と白金ミニ先物の魅力vol.1金ミニ先物の近況、先行きについて〜vol.2〜に続く—


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情報提供元: FISCO
記事名:「 【金ミニ先物と白金ミニ先物の魅力~価格動向と投資戦略~vol.1】金ミニ先物の近況、先行きについて