2020年9月19日(土)、ニュージーランドでは、大麻合法化の是非を問う国民投票が行われます。国家単位で大麻の合法化が国民投票にかけられるというのは世界で初めてのことです。

https://www.referendums.govt.nz/?gclid=Cj0KCQjwuJz3BRDTARIsAMg-HxVLuU0hzLD8pinPK0iDd1F_U8Cr7BlMm745YWoyRZtkShz2W_M2yHIaAlhpEALw_wcB

賛成派と反対派が拮抗している中で、投票に向けて、オタゴ大学の Richie Poulton 教授らが、国民の判断材料とするために、大麻に関する健康被害のデータをまとめたレビュー論文を発表しました。日本臨床カンナビノイド学会(理事長:新垣実)は、この内容が包括的かつ優れているため、今回、教授の許可を得て、日本語にして当学会のWEBサイトにて7月9日に公開しました。(翻訳全文は、WEBサイトにあるPDFファイルをダウンロードしてください)

原文
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/03036758.2020.1750435

翻訳全文についてはこちら
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=104653


タイトル:ニュージーランドにおける嗜好大麻の使用とその影響ー2020年国民投票に向けて
(一部抜粋)

1:はじめに
大麻が人体に与える影響の研究において、実はニュージーランドは世界最高の優れたデータベースを有しています。というのはダニーデン研究とクライストチャーチ研究という、1970年代に始まった1000人規模の二つのコホート研究に登録された参加者の多くは、大麻の人体への影響を評価するに十分な量と期間、大麻を使用していたからです。このデータベースを用いて過去に行われた数々の解析結果をサマライズする形で、今回の論文は書かれました。

ダニーデン研究は、ニュージーランドのダニーデン近郊で 1972年 4月 1日から 1973年 3月 31日までに生まれた 1,037人(地域の全出生数の 91%)を、その後の人生の各段階(3, 5, 7, 9, 11, 13, 15, 18, 21, 26, 32, 38, 45歳)毎に、今日まで追跡しています。最新の調査でも登録者の 94%がフォローされており、93%が MRI 検査も受けています。調査対象群はニュージーランド南島の居住者の ”縮図” として、あらゆる社会背景の人々を含んでいます。人種的には主に白人に占められていました。

もう一つのクライストチャーチ研究は 1977年 4月から 8月の間にクライストチャーチ近郊で生まれた全人口の 97%に相当する 1,265人(男性 635人、女性630人)を、一生涯に渡って追跡するという研究です。これまでに出生時、生後4ヶ月、1歳から16歳までの毎年、および18歳、21歳、25歳、30歳、35歳、40歳時に調査が行われています。参加者の大半は民族的にはヨーロッパ由来ですが、13%はニュージーランド先住民(マオリ)でした。

2:研究デザイン上の長所

3:研究デザイン上の短所

4:大麻の喫煙率について

5:メンタルヘルスへの影響
A:依存症の診断について
B:大麻とハードドラッグの関係
C:統合失調症様の精神障害
D:その他の精神障害

6:身体的な健康への影響
A:呼吸器系への影響
B:口腔衛生への影響
C:心血管系への影響
D:認知機能への影響
E:教育への影響
F:雇用への影響
G:運転への影響
H:法適用の偏りについて




【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000218697&id=bodyimage1

I:結論

現在、中年期に差し掛かっているニュージーランド人の大半が、人生のどこかの段階、特に10代後半から20代にかけて大麻を使用していました。大麻使用者の大半は咎められることもなく、深刻な健康・社会被害とも無縁でした。

大麻使用にまつわるリスクは

(1) 10代の早期から使用開始
(2) 使用頻度が高い
(3) 依存している

上記のいずれかに当てはまる場合に限られていました。

これらに当てはまるごく一部の人々は、以下のようなマイナスの影響を被っていました。

a. 精神機能障害
b. 認知機能低下
c. 呼吸機能と口腔環境への影響
d. 学業、雇用と就業、生活保護受給、逮捕投獄などの社会的影響

しかし、これらの影響は全て、大麻が違法であった時期にもたらされたことを意識することは非常に重要です。大麻を違法にしておくことは、使用者を大麻から遠ざけることにつながらず、逮捕投獄も使用減少にはつながりません。さらに薬物を違法にしておくことは、使用者を社会的・医療的支援から遠ざけます。厳罰を処す国では仮に法律が改変されれば、医療へのアクセスが増えると見込まれています。さらにこのレビューで述べたように、ニュージーランドの大麻取締法は人種的な観点から偏りをもって運営されています。著者らは四半世紀に渡って、大麻使用に伴う健康被害の問題は司法問題でなく健康問題として扱われるべきで、科学に基づいた予防と早期治療の重要性を説き続けています。例えば、年齢ごとに適切な教育を施すことが考えられますが、これは大麻が違法であるがゆえに実現していません。

今回、ニュージーランド政府は国民投票において、単純な二択を用意しました。

A:現状を維持する
B:完全合法化

の二つです。

現在の大麻登録管理法の草案は以下の目的でデザインされています。

1. 大麻の違法供給を制限すること
2. 20歳以上のみに使用を制限し未成年を保護すること
3. 大麻供給業者にライセンスを発行しTHC濃度、広告、販売方法を規制すること
4. 大麻の公衆衛生上の問題を伝え、使用者を保護すること
5. 大麻関連で困っている人が医療・社会サービスへアクセスしやすくすること

現在の法案は THC濃度の上限や、企業の利益誘導に繋がらないように配慮されていますが、価格設定や大麻関連前科の抹消の有無に関しては未定です。

著者は有権者に、最低限、単純使用に対する罰則の撤廃に関して検討してもらいたいと考えています。なぜなら、犯罪歴は人生のチャンスを著しく損ない、雇用に影響をもたらし、21世紀の世界において移動の自由を減ずるからです。犯罪歴は差別、偏見、社会的制裁に直結します。

また、理論的には、ミニマリスト的スタンス[訳注:民間の活動に対する政府の関与を最低限にすべきという立場]をとれば、第3の選択肢があったかもしれません。

それは

C:全面合法化には反対だが単純使用は非犯罪化する

という選択肢です。この選択肢にはいくつかのメリットがあります。

1. 一般的な行動(大麻の喫煙)で人生の可能性が制限されるリスクがなくなる
2. カナダやUSの各州、ウルグアイなどの先進地域の政策の影響を観察、判断する時間的な猶予が生まれる
3. 法律の変化によって使用量や乱用率に大きな変化がないことを確認できる
4. 使用増加に伴うリスクの増加に対応する猶予が得られる
5. 制度設計について詳細な議論を行なう猶予が得られる
6. 大麻に対する現実と思い込みをすりあわせる時間が得られる

合法化が選択されたとして、政府には注意深い運用を求めたいと思います。合法化された世界ではアルコール業界のような十代に向けたポップな商品開発が予想されます。この点について研究から得られるメッセージはシンプルです。商業主義から子供達が守られることが最優先されるべきでしょう。

以上

追加情報として、著者の Poulton 教授は、「私はこれまで四半世紀近くにわたって、健康関連のさまざまな政府委員会に、大麻の使用とその害についてのエビデンスを提示してきました。そしてその都度同じことを言ってきました--つまり、大麻に関連する害は健康問題として扱われるべきであり、法的に裁かれるべき問題ではない、ということです」と言っています。

※翻訳資料の内容が本学会の意見及び主張を代表するものではありません。

日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会;International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2019年7月段階で、正会員(医療従事者、研究者)67名、賛助法人会員12名、 賛助個人会員23名、合計102名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/






配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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情報提供元: Dream News
記事名:「 大麻による健康被害研究の決定版。ニュージーランド疫学調査から得られた知見の翻訳を公開