新しいF1チームが誕生した。アルファロメオ・レーシングである。シーズン開幕前の合同テストに合わせてバルセロナ・カタルーニャ・サーキットで行われた撮影イベントでは、新車のバックに「SINCE 1910」と記されたパネルが用意された。





1910年は、自動車メーカーとしてのアルファロメオが、イタリア・ミラノで誕生した年だ。レース活動は1920年代初頭に開始している。ほどなく、フェラーリの創設者であるエンツォ・フェラーリがアルファロメオのドライバーとして活躍。のちに自らのチームを設立してアルファロメオのマシンを走らせた(その後、自社開発路線に変更)。





1950年にF1世界選手権が始まると、アルファロメオはこれに参戦(最初のシーズンから現在まで参戦しているのはフェラーリだけだ)。7戦6勝してドライバーズチャンピオンを獲得する(コンストラクターズ選手権が始まるのは1958年から)。翌1951年も4勝し、ドライバーズチャンピオンを輩出した。そして、この年限りでF1から撤退する。





アルファロメオは1979年にエンジンとシャシーの両方を開発・製造するワークスチームとしてF1に復帰。しかし、成績はふるわず、1勝もできないまま1985年に撤退した。純アルファロメオのチーム名称が復活するのは、34年ぶりのことになる。だが、かつてのように、イタリアの自動車会社がワークスチームとしてF1に復帰したわけではない。



 



 



■アルファロメオは名前だけ?



 





タイトルスポンサーになっただけだ。どこぞのスタジアムのように、命名権を購入したようなものである。チームの所有者はスイスの投資グループで、本拠地はスイス・ヒンウィルにある。母体となったチームはザウバーといって、ペーター・ザウバーという人物が興したチームである。F1に初参戦したのは1993年のことで、メルセデス・ベンツの支援を受けてのことだった。1980年代に耐久レースで密な関係にあった延長である。





2005年にドイツのBMWがザウバーを買収。2006年から2009年はBMWザウバーとしてF1に参戦した(BMWのワークスチームだったが、ザウバーの名前は残った)。2009年シーズン限りでBMWが撤退すると、チームはペーター・ザウバーの手に戻り、プライベートチームとして再出発した。ペーターは2012年シーズン中にチーム代表を退くと、2016年にチームの所有権はスイスの投資グループに渡った。



 





2017年4月には、翌シーズンからホンダのパワーユニットがザウバーF1チームに供給される旨の発表があった。だが3ヵ月後、ホンダからザウバーへのパワーユニット供給計画は、「双方の目指す方向に相違が生じたため」白紙撤回された。この間にチーム代表は替わり、元ルノーF1チームのチーム代表、フレデリック・ヴァスールになっていた。





白紙撤回の翌日、ザウバーは2018年からフェラーリの最新パワーユニットの供給を受ける旨を発表。この年からアルファロメオがタイトルスポンサーを務めることになり、チーム名は「アルファロメオ・ザウバーF1チーム」に変更された。つまり、2018年からアルファロメオの名称は復活していたのだ。チーム名称からザウバーの名前が消え、アルファロメオ一色になったのが2018年から2019年にかけての変化点である。





整理すると、アルファロメオ・レーシングのオーナーはスイスの投資グループで、本拠地はスイス。パワーユニットはアルファロメオ製ではなくフェラーリ製。チーム代表は元ルノF1チームのフランス人である。脈絡がないといえばないし、名が体を表すとは限らないのがF1だ。



 



 



■アストンマーティンなのにエンジンはホンダ製…



 





アストンマーティン・レッドブル・レーシングもそうである。イギリスに本拠を置くレッドブル・レーシングの最新マシン、RB15は、イギリスの高級スポーツカーブランド、アストンマーティン製のエンジンを積んでいない。話をややこしくするつもりはないが、アストンマーティンDB11 V8やヴァンテージもアストンマーティン製のエンジンは積んでおらず、AMG製のエンジンを積んでいる(実に官能的で、いいエンジンだ)。



 





じゃあアストンマーティン・レッドブル・レーシングRB15もメルセデスAMG製パワーユニットを積んでいるかというとそうではなく、ホンダ製だ。アストンマーティンはレッドブル・レーシングのタイトルスポンサーを務めているのだ。ホンダはF1復帰5年目にしてトップチームにパワーユニットを供給することになった。レッドブルは2018年シーズンに4勝を挙げており、コンストラクターズ選手権3位の成績を残している。トップクラスの実力を備えていることは、間違いない。





トップチームの一角にパワーユニットを供給しているのに、勝った場合はホンダではなく、「アストンマーティン・レッドブル・レーシングが勝った」と表現されるのが正式だ。フェラーリのパワーユニットを積んでいるのに、「アルファロメオが」と表現されるのと一緒である。タイトルスポンサーとはそういうものだ。



 





ノーズの一等地にはホンダのHマークよりもアストンマーティンのロゴの方が目立つように配置されているし、リヤウイングはまるまるアストンマーティンに占拠されている。ホンダのパワーユニットの出来が良くてレッドブルが好成績を残すと、ホンダよりもアストンマーティンが目立っておいしい思いをする図式である。

 


情報提供元: citrus
記事名:「 アルファなのにフェラーリ、アストンなのにホンダ……なぜF1は名前と中身が違うのか?