「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に贈られる賞で、“表のノーベル賞”に対して“裏ノーベル賞”とも言われる「イグノーベル賞」。毎年世界を熱狂させるこの賞を2013年に受賞した新見正則医師は、現在抗がんエビデンスを獲得した唯一の生薬「フアイア」の可能性に着目し、その普及に取り組んでいる。新見医師の挑戦について迫った。

「あり得ない」という先入観を捨てて

多くの人にとって、「ありえない」という先入観は根強く、なかなか変えることが難しいものです。ですが新型コロナウイルスの流行、さらにロシアによるウクライナ侵攻など今の世の中には、それ以前には決して想像できなかったような事態が次々と起こっています。

実は「免疫力」も、日本ではつい数年前まではニュースでもなかなか取り上げられることのない言葉でした。血圧のようにそれを測る一つの数値がないために、どこか怪しいものであるというような世間の認識もあったのです。

それが2018年、がんに対する免疫力を回復させる治療薬「オプジーボ」の開発に関わる本庶佑先生の研究がノーベル生理学・医学賞を受賞したことにより、それまで世間一般的には顧みられることの少なかった「免疫力」が、一躍脚光を浴び、市民権を得ることになりました。

さらに近年の研究で、がん細胞は20代や30代の若く健康なときから体の中に存在していると判明しています。若いうちは免疫力が高いためがん細胞を撃退できるのですが、年齢を重ねるにつれて免疫力が低下し、がん細胞が増殖し、罹患してしまうのです。

年齢を重ねても免疫力を維持し、がんから身を守ることはできないか。私は漢方医としてがんに効く漢方薬をずっと探し求めていました。

抗がん効果のある生薬「フアイア」との出会い

私は外科医として医師のキャリアをスタートしました。多くの優秀な外科医の中で、突出した外科医となることは難しく、医師としての在り方に悩んでいたときに免疫学に興味を持ったのです。

オックスフォード大学に留学して移植免疫学の研鑽を積み、博士号を取得しました。帰国してからは大学病院で日本初となるセカンドオピニオン外来をスタートしました。他院できちんと治療を受けているはずなのに治らない多くの患者さんの診療をしているうちに、患者さんの新しい選択肢となり、体に負担の少ない治療薬である漢方薬に着目し、処方するようになりました。

漢方薬の原料である生薬の中でも、がんに効果があると手応えを感じ始めた生薬が「フアイア」です。「フアイア」は、槐(エンジュ)の老木に生えるキノコを原料にした生薬です。  

近年医療分野の研究開発の発展が著しい中国では、1992年から「フアイア」は抗がん剤として認可を受けて使用されています。そして2018年、肝臓がん手術後の患者さんに対して1000例規模のランダム化(くじ引き)大規模臨床試験が行われ、明らかに生存率に優位性があるとイギリスの医学専門誌「GUT」に掲載されました。

その論文が発表されたとき、私は「やっぱり本物だったんだ」と自分の手応えが間違っていなかったことを知りました。そして「フアイア」をもっと多くの人に届け、患者さんのための治療がしたいと2020年に自分のクリニックを開院しました。

自分しか行かない道だからこそ価値がある

私は外科医と、免疫学者、そして漢方医と3つのキャリアを積んできたからこそ、これまで存在しなかったような医師となり、患者さんのお役に立てていると思っています。

私のこれまでの道のりは、誰も歩んでないところをあえて進んでいるような歩みでした。足跡のない新雪の上を時にはスキーヤーのようにスイスイ、時にはブルドーザーで行くかのごとく、渾身の力を入れて道を作ってきました。私しか行かないところは、私が息絶えてしまったら誰も行かなくなってしまいます。そのため、生きているうちは誰もしないことをするのが私の生きざまである気がしますし、そっちの方が楽しいですね。

がんは勿論、当院では生薬「フアイア」をさまざまな漢方と組み合わせて認知症や発達障害、不妊症の方などに処方し、成果を上げています。免疫を中庸にする効果のあるこの「フアイア」をもっと多くの方が飲むようになれば、薬価も下がり、より手に入りやすくなるはずです。そのために「フアイア」の普及に努めながら、さらに「フアイア」のような体に負担もほとんどなく、免疫を上げる生薬を探して、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。

読者の皆さんには先入観を捨てて、「そんなこともあるのかな」と、少しでも思ってほしいと感じています。その信頼を支えに、私はこれからも進んでいきます。

■プロフィール

1959年生まれ、京都府出身。1985年、慶應義塾大学医学部卒業後、英国オックスフォード大学で移植免疫学を学ぶ。専門は血管外科・消化器外科。セカンドオピニオンのパイオニアでもある。また漢方医としても研鑽を積む。認知症の母の介護経験もあり、帝京大学附属病院で診療。2013年、ハーバード大学イグノーベル賞医学賞を受賞。2020年、新見正則医院開院。テレビ出演多数。著作に『西洋医がすすめる漢方』、『仕事に効く! モダン・カンポウ』『患者必読 医者の僕がやっとわかったこと』『イグノーベル的バランス思考 極・健康力』など多数。

新見正則医院

https://niimimasanori.com/

情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 生薬の可能性を探求し、多くの人に希望を届ける