『インデペンデンス・デイ』のローランド・エメリッヒ監督が、日本の運命を決した歴史的海戦を20年に及ぶリサーチを経て鮮明に描いた映画『ミッドウェイ』が大ヒット上映中です。


未曾有の戦いとなった第二次世界大戦の中でも、歴史を左右するターニングポイントとなった激戦として知られるミッドウェイ海戦。激突したのは、日本とアメリカ。1942年、北太平洋のハワイ諸島北西のミッドウェイ島に、巨大な航空母艦、世界最大の大和を含む超弩級の戦艦、戦闘機、急降下爆撃機、潜水艦が出動し、空中、海上、海中、そのすべてが戦場となった。そしてそこには、両軍ともに、国を愛し、覚悟を持って戦った男たちがいた…。司令官たちの緊迫した頭脳戦、パイロットたちの壮絶な空中戦、彼らを船上から迎え撃つ決死の海上戦による運命の3日間──何が、彼らの勝敗を分けたのか…?



キャストには、山本五十六、チェスター・ニミッツをはじめとした実在の人物を演じるために、ウディ・ハレルソン、パトリック・ウィルソン、デニス・クエイド、アーロン・エッカート、豊川悦司、浅野忠信、國村隼など日米の実力派俳優が集結しています。


今回は浅野忠信さんに作品について、コロナ禍において感じたことについて、お話を伺いました。



――本作で浅野さんは実在した軍人である山口多聞さん役を演じられたわけですが、撮影前に本などを読んで理解を深めるということはあったのでしょうか。


浅野忠信(以下、浅野):僕は山口多聞さんを演じさせていただいたので、どうしても一辺倒な見方しかできていないとは思うんですけど、多聞さんは、とても優秀な方だったと思うんですね。それでも、上に豊川(悦司)さんが演じた山本五十六さんであるとか色々な人たちがいて、どんなに自分の考えを持っていようと言えない事が多かったと思うんです。なので「多聞さんは、この時どういう気持ちだったのかな?」と思うんですね。この戦いにおいて独自の計画を立てていたと思いますし、本心ではそのやり方で戦いたかったとも思います。でも、自分の計画が通らないという事を当たり前のように自分で押し殺す時代だったというか。もちろん、大きな組織の中で生きないといけないという意識は今もあるのかもしれないですけど、当時は想像出来ないほど強かったと思うので。


――私も『ミッドウェイ』を観た後、色々と調べて、多聞さんはすごい方でアメリカ軍からも恐れられていたと。


浅野:こういう事実があったという事を描けるのは映画ならではなのかな、と思います。実在する人物を演じると、多聞さんは僕のやったことを許してくれるのだろうか?とか、色々と考えてしまう部分もあって。なかなか完成した作品を客観的に観れなかったりもするのですが。今回ありがたい事にオーディション等では無く、指名で役をいただいて、ハリウッドで大ヒットを飛ばしている監督なので緊張もありましたが、撮影では監督がとても優しくて。「ここがどういうシーンか」と丁寧に説明してくださった上で「日本人として、やりづらいシーンがあったら教えてくれ」と声をかけてくれたり、スタッフにも日本の事を詳しく聞いて撮影をしていました。


――人間は歴史から学んで、今を生きたり未来に繋げることがとても大切だと思います。浅野さんはこの映画を通して伝えたいことはありますか?


浅野:戦争が世界のどこかで続いているのは、とても恐ろしいことだと思います。軽々しく発言出来ない部分もあるのですが、何度も何度も喧嘩してしまう、これは生き物や人間が、常に成長してるからという側面もあると思うんです。一回、色々な事を受け止めたようでも、その先に成長してお互いに変化があれば、また衝突するのは常なんだな、と。ただ、兄弟や家族でも、恋人でも、喧嘩のやり方はもうちょっとまともになっていくわけですよね。最初は、どうしようもない喧嘩をしていたけど最後は、そこまで激しい喧嘩じゃなくて、口喧嘩かもしれない。もしかしたら手紙でお互いが言いたいことを言い合うとか、違う形が取れるわけで。


これからも国と国が衝突することはあるかもしれないけど、わざわざ人の命を奪ってまですることではないと思います。ましてや国のバカげたトップの人間たちがコントロールする中で、下の人間が命を落とすというのは、ものすごく悲しい事だと思うので。


――おっしゃるとおりだと思います。私の話になってしまい恐縮なのですが、中学生の時に授業で浅野さんが主演の『地雷を踏んだらサヨウナラ』(1999)を観て。戦場カメラマンという職業や一ノ瀬泰造さんという人物、歴史を知ることが出来ました。映画というエンターテイメントを通して、様々な事を学べるというのは素晴らしいなと感じています。


浅野:そうだったんですね、ありがとうございます。そこが映画の大きな力だから、我々作り手が、そういうことをきちんと自覚しないといけないですよね。戦争映画に限らず、どんな小さな映画であっても自分がその役柄を演じる事で与える影響にどんな事があるかを想像しなくてはいけない。絵でも音楽でも同じ様にたくさんの事を学ぶ事が出来ますが、より的確に、あたかも自分がそこにいるような疑似体験をできるのは映画の良いところだと思うので。



――浅野さんは本作ももちろん、他の作品でも世界的に活躍されています。このコロナ禍において影響を受けたこと、考えたことはありましたか?


浅野:今もコロナウイルスによる影響は続いていて、気をつけないといけないと思います。その上で一人一人が「自分に何ができるのか」を考えて行動すべきだと思うんです。ただ、それと同時にネガティブな面だけでなくて、コロナ禍が与えてくれた良い部分を考えることがあって。


僕、個人の人生で考えたときに映画作りであったり、演じるという事がただの繰り返しになっているのでは無いかという危機感があったんです。大先輩たちが作ってくれたレールを歩いているだけでは無いのか、と。こんな風に世界中でみんなにブレーキかかることってなかなかありませんから、嫌でも休まされて、自分の事についてじっくり考える事が出来たんです。世界中が同じ境遇の中で、同じことを乗り越える…これは、まさに新しい時代の始まりだなとも思ったんです。


――大変な出来事ですが、そこから学ぶことがありますよね。


浅野:実は「しばらく休んじゃおうかな」なんて思ってたので、そのタイミングで、世界的にみんなが休むことになったので、たくさんの時間を使って考えました。「もう今年47歳になるわけで、自分自身の事をもうちょっと考えてもいい年齢になったのかな」と思えたので。僕はありがたいことに早くに子供が出来たので、子供も成人して、これからは自分の人生をどう生きようかなと。


――俳優業をやっていると、作品ベースのスケジュールになってしまいがちですもんね。


浅野:自分でも気付かなかったのですが、平成の30年間は俳優しかやっていなかったところもあるので。もちろん今後も俳優はやると思いますが、俳優中心の生活では無くて、もうちょっと勇気を出して変化しても良いのかなと。


――素晴らしいお考えだと思います。個人的にも、多くの浅野さんのファンの方も俳優を続けていただきたいと願ってしまいますが、『ミッドウェイ』の様に現在の浅野さんが活躍している作品を、我々観客も噛みしめる事も大切だと思いました。


浅野:ありがとうございます。色々な活動が制限されている中で、映画館の皆さんは「新しい映画館のあり方」を考えてくれて常に更新していて。我々が居心地のいいように作ってくれているわけで。もちろんウイルスに関して「絶対安心」ということは言えないですけど、一人一人が気をつけて鑑賞すれば、比較的安全な環境だと思うので、ぜひ映画館で楽しんでいただければ嬉しいです。


――今日は貴重なお話を本当にありがとうございました!


【動画】映画『ミッドウェイ』予告編

https://www.youtube.com/watch?v=_HWNoT7gwKc [リンク]


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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 映画『ミッドウェイ』浅野忠信インタビュー「歴史を学べる事が映画の大きな力。我々作り手は自覚しないといけない」