腕立ての回数で10年後の心血管疾患(血管や心臓まわりの病気)の発症を予測できるかもしれません。

心疾患疾患は世界で最も多くの死亡原因になっていることが分かっています。

ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のジャスティン・ヤング氏(Justin Yang)らの研究チームは、参加者を10年間に渡って追跡し、腕立て伏せが連続でできる回数と心血管疾患の発症の関連性を調べました。

分析の結果、腕立て伏せが連続で41回以上できた人は、10回しかできなかった人と比較して、心血管疾患のリスクが約96%低下することが確認されたのです。

また腕立て伏せが連続でできた回数の方が、心肺機能の高さよりも心疾患のリスクとの相関が高いこともわかっています。

研究チームは「私たちの発見は、腕立て伏せの回数が心血管疾患のリスクを評価するのに役立つ、簡単でお金のかからない方法である可能性を示唆している。」と述べています。

研究の詳細は、学術誌「JAMA Netw Open」にて2019年2月15日に掲載されました。

目次

  • 心拍持久力を測定するのにはコストがかかる
  • 腕立て伏せの回数で心血管疾患の発症リスクは予測できるのか

心拍持久力を測定するのにはコストがかかる

日本人の死因の第一位は「悪性新生物(がん)」ですが、次に位置するのは何かご存じでしょうか。

それは「心血管疾患」です。

心血管疾患とは、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの心臓や血管に関連する循環器系の病気のことです。

狭心症は冠動脈(心臓に酸素を送る血管)の収縮により血液が流れにくくなり心臓に十分な血液を送れなくなる状態で、心筋梗塞はより冠動脈の進行し、冠動脈の一部が詰まり血液が流れなくなった状態をいいます。

狭心症と心筋梗塞は、心臓に十分に血が行き渡っていない状態(虚血)という共通点から合わせて、虚血性心疾患と呼ばれています。

主な症状としては、胸の強い痛みや呼吸困難、吐き気や倦怠感などのさまざまな身体症状がみられるようです。

2019年のWHOの世界の死因原因の順位を見ると、虚血性心疾患(狭心症と心筋梗塞の総称)と脳卒中が上位に入っており、世界で最も多くの死亡原因になっていることが分かっています。

調査の結果を改変。 / Credit: WHO, (2019).

加齢をはじめ肥満、喫煙などの要因が心血管疾患のリスク要因を上昇させると言われてきましたが、近年の研究では、それらの要因に加えて、運動不足が心血管疾患の発症と関連があることが分かっていました。

このような研究結果が報告されたことで、心血管の状態を予測する客観的指標として、運動習慣に関する質問紙への回答が用いられるようになっています。

またより予測精度が高い検査方法として、トレッドミルやエアロバイクを用いた運動で心臓にある程度の負荷をかけ、脈拍や血圧、呼吸数をチェックする運動耐力テストがあります。

特に狭心症の中には、労作性狭心症と呼ばれ、安静時には症状が表れず、運動負荷時の心電図の動きでしか不整脈等の異常を発見できないものもあり、一時的に負荷をかける方法は早期発見につながります。

しかし運動耐力テストは医療機関内で行われ、心電図を測定する装置を使用するなど高額で時間がかかりすぎるという問題がありました。

そこでハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のジャスティン・ヤング氏(Justin Yang)らの研究チームは、心血管疾患の発症リスクをより簡単にお金のかからない方法で診断する方法はないか検討を行っています。

腕立て伏せの回数で心血管疾患の発症リスクは予測できるのか

腕立て伏せの回数で心血管疾患の発症リスクは予測できるのか / Credit: Unsplash

実験に参加したのは、現役の男性消防士1,104名です。

参加者には腕立て伏せが連続でできる能力心肺機能を測るテストを受けてもらいました。

腕立て伏せのテストでは、80 bpmのメトロノームの音に合わせて何回連続で腕立て伏せができたかを記録しています。

ここでは上限を80回とし、メトロノームの音に合わせられなかった回数が3回になるか、疲労でギブアップするまでの回数がカウントされました。

参加者は実験結果に応じて、次の5つのグループに分けられました。①10回以下しかできなかった人、②11-20回できた人、③21-30回できた人、④31-40回できた人、⑤41回以上できた人

そして、参加者を10年間追跡し、その間に生じた心血管疾患の発症と連続で腕立て伏せができた回数の関連性を調べました。

分析の結果、まず腕立て伏せの回数が多いほど、心血管疾患の発症に関わる血圧、総コレステロール値、LDLコレステロール値、中性脂肪そして血糖値の数値が低いことが分かりました。

そして連続で41回以上の腕立てをできた人は、10回以下しか腕立て伏せができなかった人と比較して、10年後の心血管疾患の発症リスクが約96%低いことが確認されたのです。

実験の結果を改変。 / Credit: Yang et al., (2019)

41回以上腕立て伏せできないと心血管疾患のリスクが下がらないのかといわれるとそうではありません。

10回以下しか腕立て伏せができなかった人と比較して、31-40回腕立てをできた人は約75%、21-30回腕立てをできた人は約84%、11-20回腕立てをできた人は約64%と、10年後の心血管疾患の発症リスクが低下しています。

また心拍機能の強さよりも、腕立て伏せの回数は心血管疾患の発症の有無との間に強い関連が見られました。

まとめると、連続でできる腕立て伏せの回数は、心肺機能の強さよりも、10年後の心血管疾患の発症リスクを高い精度で予測する可能性があるということです。

研究チームは「私たちの発見は、腕立て伏せの回数が心血管疾患のリスクを評価するのに役立つ、簡単でお金のかからない方法である可能性を示唆している。」

「意外なことに腕立て伏せの回数は、心拍機能を測定するテストのパフォーマンスよりも心血管疾患のリスクと強く関連していた。」と述べています。

腕立て伏せをするだけで、その後10年間の心血管疾患のリスクが予測できるのであればしない手はありません。

一度何回できるか試してみてはいかがでしょうか。

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参考文献

Men who can do 40 push-ups far less likely to develop heart disease
https://studyfinds.org/men-more-than-40-push-ups-heart-disease/

Push-up capacity linked with lower incidence of cardiovascular disease events among men
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/02/190216094507.htm

Harvard Study Puts Men’s Push-Up Capacity in the Spotlight
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-athletes-way/201902/harvard-study-puts-mens-push-capacity-in-the-spotlight

元論文

Association Between Push-up Exercise Capacity and Future Cardiovascular Events Among Active Adult Men
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2724778

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「10回以下はヤバい?」腕立て伏せの回数で10年後の心血管疾患リスクがわかる