道端に生えている雑草は、普段はそこまで目立つ存在ではありませんが、花が咲くと私たちを大いに楽しませてくれます。

散歩中に雑草の花を見て、「もう春だな」と季節を感じたこともあるでしょう。

東京大学大学院農学生命科学研究科に所属する丸山紀子氏ら研究チームは、新しい研究により、そんな日本の外来雑草の開花時期には、「故郷の面影」が残っていると報告しました。

春に咲く外来雑草のほとんどはヨーロッパ原産であり、秋に咲く雑草の多くは北米原産だったのです。

研究の詳細は2023年11月2日付の科学誌『Biological Invasions』に掲載されました。

目次

  • 日本にやってきた外来雑草たちのストーリー
  • 日本の外来雑草の開花時期は「原産地域ごとに異なる」傾向あり

日本にやってきた外来雑草たちのストーリー

「クローバー」という名でも知られる「シロツメクサ」 / Credit:Canva

私たちが普段見かける雑草の中には、日本の外から持ち込まれた外来種も多く存在します。

外来種と言われると、侵略的という単語が浮かびあまり良い印象を持てない人もいるかもしれませんが、もはや日本の風物詩と呼べる植物が多く含まれています。

例えば、クローバーという別名で知られている、「シロツメクサ(白詰草、学名: Trifolium repens)」も外来種です。

道端や公園で四つ葉のクローバーを探したことがある人もいるでしょう。

開花時期は春であり、シロツメクサの白い花を見て、春の温かみを実感できます。

このシロツメクサは私たち日本人にとってかなりなじみのある雑草ですが、もともとはヨーロッパ原産の植物です。

江戸時代、オランダから長崎に輸入されたガラス器を衝撃から守るため、緩衝材として、乾燥させたシロツメクサが詰められていたようです。

ヨーロッパから来たシロツメクサ。その白い花は春の温かみを感じさせる / Credit:Canva

これが「詰草」という語の由来であり、白い花を咲かせることから「白詰草」と呼ばれました。

それ以降、シロツメクサは牧草としても導入され、その強い繁殖力により、日本中に広がったのです。

このように、シロツメクサだけをとってみても、そこには興味深いストーリーがあり、他の外来種にも多種多様な経緯があります。

そして新しい研究では、各雑草の開花時期だけを見ても、「どこから来たのか」というストーリーを知ることができると分かりました。

日本の外来雑草の開花時期は「原産地域ごとに異なる」傾向あり

外来種は、もともとそれぞれの原産地域の環境に適応してきた生物です。

そのため、侵入地である日本においても、原産地域の形質(生物の形および性質)をそのまま引き継いでいる可能性があります。

今回、丸山紀子氏ら研究チームは、外来雑草の開花時期に着目して、原産地域が形質パターンに影響を与えているか検証しました。

日本の外来雑草の原産地域と種数の割合。ヨーロッパと北米原産が多い。 / Credit:丸山紀子(東京大学)_身近な雑草に見える故郷の面影 ―日本の春の花はヨーロッパ原産、秋の花は北米原産が多い―(2023)

この研究では、以下の3つのデータから国内の外来雑草種の開花時期を分析しました。

  1. 国内の外来雑草種537種を網羅した図鑑データベース
  2. 丸山氏による1年間9地点234回にわたる現地調査(計3112記録)
  3. 市民ボランティア(東大農場・演習林の存続を願う会)が25年間毎月行った植物調査(計5982記録)

その結果、どのデータセットでも、原産地域ごとに開花時期が異なる傾向にあると分かりました。

市民ボランティアの野外調査による外来雑草の原産地別の月ごとの開花種数。他の調査からも同様の傾向が見られた / Credit:丸山紀子(東京大学)_身近な雑草に見える故郷の面影 ―日本の春の花はヨーロッパ原産、秋の花は北米原産が多い―(2023)

例えば、日本の外来雑草の割合は、1位がヨーロッパ、2位が北米ですが、同じ地域から来た種は、似たような開花時期を持っていたのです。

実際、先述の「シロツメクサ」や「ブタナ(豚菜、学名:Hypochaeris radicata)」、「ムギクサ(麦草、学名:Hordeum murinum)」などはヨーロッパ原産であり、開花時期は春でした。

春に咲く雑草はヨーロッパ原産が多く、秋に咲くのは北米原産が多い。 / Credit:丸山紀子(東京大学)_身近な雑草に見える故郷の面影 ―日本の春の花はヨーロッパ原産、秋の花は北米原産が多い―(2023)

一方、「ブタクサ(豚草、学名:Ambrosia artemisiifolia)」や「セイタカアワダチソウ(背高泡立草、学名:Solidago altissima)」などは北米原産であり、開花時期が秋でした。

また、たとえ同じ科であっても原産地域によって開花時期が明確に異なると分かりました。

例えば、同じキク科でも、春に咲くセイヨウタンポポ(西洋蒲公英、学名 Taraxacum officinaleやブタナはヨーロッパ原産で、秋に咲くオオブタクサ(大豚草、学名:Ambrosia trifidaハルシャギク(波斯菊、学名: Coreopsis tinctoria)は北米原産なのです。

では、どうして原産地域ごとに開花時期が異なっているのでしょうか。

研究チームが原産地域の在来雑草の開花時期の文献を調査したところ、ヨーロッパ原産の雑草は春咲きが多く、北米原産の雑草は秋咲きが多い傾向にあると判明しました。

ヨーロッパ、北米の雑草の月ごとの開花種数。日本に生えるヨーロッパ原産、北米原産の雑草の開花時期と違いはなかった / Credit:丸山紀子(東京大学)_身近な雑草に見える故郷の面影 ―日本の春の花はヨーロッパ原産、秋の花は北米原産が多い―(2023)

そのため、日本では雑草の開花時期によって、どの国からやってきた花なのかある程度予想できるのです。

この結果は、外来種が原産地域の形質を引き継いでいることを示すものであり、今後、外来種が日本の生態系に与える影響を研究するうえで役立つと考えられます。

最後に研究チームは、「身近な雑草の花を見て、その故郷が想像できるのはロマンを感じませんか?」とコメントしています。

次に道端で雑草が花を咲かせているのを見るなら、季節の訪れだけでなく、ぜひその雑草の故郷の様子も思い浮かべてみてください。

その雑草は昔、遠く離れた日本に、海を渡って来ました。

それから何十年も経ちますが、毎年、故郷と同じ季節に花を咲かせているのです。

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参考文献

身近な雑草に見える故郷の面影 ―日本の春の花はヨーロッパ原産、秋の花は北米原産が多い―
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20231128-1.html

元論文

Effects of biogeographical origin on the flowering phenology of exotic plant communities
https://link.springer.com/article/10.1007/s10530-023-03193-2

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 実は子供の頃から見慣れた野花は外来種「春に咲くのは欧州産、秋に咲くのは北米産」