暴力的なゲームは、社会的にも家庭でも常に物議を醸しています。

「子供が暴力的に育ってしまうのではないか」とか「ゲームに感化された若者が暴力事件を起こすのではないか」と不安視する声はよく耳にするでしょう。

しかしゲームが人に与える影響はそう単純ではありません。

実際、独マックス・プランク研究所による2021年の研究では暴力的なゲームを長期間にわたり毎日続けても攻撃的にならないことが示されています。

さらにここ数年の研究では、人気の暴力的なゲームが発売されると、一時的に犯罪率が下がるという傾向が報告されています

この結果は、暴力的なゲームが社会的な認識に反して、実は世の中の平和に貢献している可能性を示唆しています。

目次

  • 米国で「コール・オブ・デューティ」の発売後に犯罪率が低下
  • オランダでは「GTA」の発売後に犯罪率が減少

米国で「コール・オブ・デューティ」の発売後に犯罪率が低下

ここでは「暴力的なゲームの発売が犯罪率を低下させた」ことを示した2つの研究を紹介します。

一つ目は、米ビラノバ大学(Villanova University)とラトガース大学(Rutgers University)が2014年に発表したものです(Psychology of Popular Media Culture, 2014)。

研究チームは、アメリカにおける暴力的なゲームの売上と犯罪率を比較し、その関連性を調べました。

調査では、アメリカ産の大人気シューティングゲームで、毎年1本のペースで新作がリリースされているコール・オブ・デューティ(CoD)を対象としています。

その結果、興味深いことに、CoDの売り上げが急激に高くなる10〜12月頃(リリース時期は10月末か11月初め)に、殺人や暴行などの犯罪数が減少していることが判明したのです。

下のグラフを見比べてみると、まるで鏡映しのように、ゲームの売り上げが高いときに犯罪率が下がっていることが伺えます。

ゲームの売上の変動 / Credit: Markey, Patrick M. et al., Psychology of Popular Media Culture(2014/PDF)
殺人件数の変動 / Credit: Markey, Patrick M. et al., Psychology of Popular Media Culture(2014/PDF)
罪の重い加重暴行の変動 / Credit: Markey, Patrick M. et al., Psychology of Popular Media Culture(2014/PDF)

もちろん、これは相関関係を示したものであり、「暴力ゲームの発売」と「犯罪率の低下」との因果関係を証明するものではありません。

それでも研究主任のパトリック・マーキー(Patrick Markey)氏は「暴力的なゲームの発売は、一時的にも殺人や暴行などの重犯罪の発生件数を減少させる効果があると考えられる」と話しています。

また、その犯罪の抑止効果は、ゲームリリース後の犯罪減少率を踏まえると、最大3カ月は持続すると述べました。

さらに同様の研究はアメリカ以外でも実施されています。

オランダでは「GTA」の発売後に犯罪率が減少

二つ目は、オランダのWODC(Research and Documentation Centre)が2017年に発表した研究です(European Journal of Criminology, 2017)。

ここで研究チームは、CoDと双璧をなす暴力ゲームグランド・セフト・オート5(GTA5)』を対象としました。

GTAシリーズは、プレイヤー自身が街を自由に徘徊しながらギャングの犯罪に加担したり、市民や警官に暴行したりできるR指定のゲームで、「グラセフ」の愛称でお馴染みです。

調査では、GTA5のリリース(2013年10月)とオランダ国内の青少年犯罪率との関連性を比べました。

青少年犯罪率は、12〜18歳および18〜25歳の2つの年齢層で犯罪登録数が2012〜2015年の間にどれだけ変化したかを調べています。

その結果、アメリカの研究と同じように、2013年のGTA5リリース後の数カ月間で12〜25歳の青少年の犯罪件数が明らかに減少していることが確認できたのです。

こちらも因果関係を説明するものではありませんが、暴力ゲームの発売と犯罪数の減少には強い関連性があると思われます。

GTA5リリース後に青少年の犯罪率が低下 / Credit: canva

これについて、先のパトリック・マーキー氏は「潜在的に犯罪をする危険性のある人々は、ゲームという仮想場の中で暴力を楽しみ、そこでカタルシスを得ることで、現実世界で実際に暴力を振るうことが抑制されている可能性が高い」と指摘しました。

また米ペンシルベニア大学ウォートン校の経営学教授であるイーサン・モリック(Ethan Mollick)氏はこの結果を受けて、X(旧Twitter)でこう述べています。

「GTAがリリースされると、潜在的な犯罪者がゲームをするために屋内に留まるので、暴力と犯罪は実際に減少します。

(これは他の暴力的なゲームにも当てはまるので、残念ながら、毎年のCoDリリースは実際には世のためになっているのです)」

これらの研究は調査対象とした年齢や性別、または犯罪の種類に限界があるため、暴力ゲームの発売が全ての年齢層および全ての犯罪に対して、抑止力を持つとは言えません。

それでも研究者らは、暴力ゲームの発売とある種の犯罪率の低下にはとても強固な関連性が見られるため、一時的にせよ重犯罪を減らす効果が期待できると考えています。

何かと毛嫌いされがちな暴力ゲームは、多少なりとも世界平和に貢献しているのかもしれません。

暴力的なゲームは「人間を攻撃的にしない」 独研究所

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参考文献

GTA fans, rejoice: When violent video games are released, the crime rate drops
https://www.zmescience.com/science/domestic-science/gta-fans-rejoioce-when-violent-video-games-are-released-the-crime-rate-drops/

Do violent video games actually reduce real-world crime?
https://www.polygon.com/2014/9/12/6141515/do-violent-video-games-actually-reduce-real-world-crime

元論文

Violent video games and real-world violence: Rhetoric versus data
https://psycnet.apa.org/record/2014-33466-001

(2014)

The release of Grand Theft Auto V and registered juvenile crime in the Netherlands
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/1477370817717070?journalCode=euca

(2017)

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 暴力的なゲームが発売されると「犯罪率」が一時的に低下していた!