「かゆみ」は非常に不快な感覚であり、傷がつくほど掻きむしりたくなることもあります。

皮膚疾患などで常にかゆみがあると、何をしても集中できず、夜に眠れないほどのつらい状態になってしまう人もいます。

かゆみを抑えるための飲み薬や、塗り薬はすでに存在しますし、スキンケアによって皮膚状態を良好にすればかゆみ対策になります。

このように医学的見地からかゆみを抑えることが一般的な考え方でしょう。

しかし、テクノロジーを活用してかゆみと戦おうとする動きも見られます。

今回は、科学的に「かゆみ」を解決しようとしている試みを紹介します。

目次

  • 「かゆみ」とは?
  • ひっかく強さを客観的に判断するデバイス
  • かゆみを軽減するための装置

「かゆみ」とは?

Credit:ぱくたそ

まずは、そもそもかゆみとは何かかから説明します。

かゆみの定義とは「掻きたくなる不快な感覚」です。

炎症など皮膚に異常が起きていることを伝えるために、脳がかゆみを生じさせているとされています。

また、虫刺され、肌荒れなどからくる皮膚の炎症以外にも、がんや内臓疾患が原因でかゆみが生じることもあります。

ただし、内蔵疾患が原因のかゆみであっても、かゆみが発生するのは皮膚部分のみです。

これは、体内の皮膚以外の部分で異常を検知したとしても、かゆみを伝える神経の末端部分は皮膚のそばにあるからです。

人間はかゆみを感じると、その部分を掻きたくなります。

これは、痛みの刺激を伝える神経回路は、かゆみを伝える神経回路を抑えられることが原因とされています。

通常かゆみは皮膚に付着した異物の排除が目的であるため、皮膚を掻くことで生じる痛みがかゆみを和らげる報酬として機能するのでしょう。

しかし、内臓疾患が原因であったり、慢性の皮膚炎症であるアトピー性皮膚炎によるかゆみは、皮膚上の異物ではなく体内に問題があるため、掻いても掻いてもかゆみが鎮まるのは一瞬で、またすぐにかゆくなることが一般的です。

掻きすぎると皮膚を傷つけてしまい、炎症のさらなる悪化や新たな炎症の発生につながります。

そのため、かゆみは体の異常を知らせるために必要な感覚ではありますが、引っ掻くという対処では皮膚に悪影響を及ぼすため、その前にかゆみを抑える必要があります

かゆみを抑えるための飲み薬や塗り薬にはたくさんありますが、どの薬が効果的なのかは個人差があり、その人の症状やかゆみの強さによっても適切な薬は変わってきます。

しかし、かゆみの強度は主観的なものであり、客観的に判断することは困難です。

そこで、かゆみを抑える薬の有効性を適切に判断するために、かゆみを客観的に測定するウェアラブルデバイス(体に装着できるデバイス)の開発が進められています。

ひっかく強さを客観的に判断するデバイス

Credit:Akhil Padmanabha

かゆみ測定デバイスは、上図のように指輪のような形をしていて、指の動きを測定するセンサと振動の強さを測定するセンサ、2つのセンサが搭載されています。

この2つセンサからの情報が手首に装着されたマイコンに送信されて、指の動きと振動の強さを数値化する仕組みです。

かゆみが強くなると、指の動きが早くなり振動が強くなるため、本人の申告ではなく、「実際どのように掻いていたのか」という情報をもとにかゆみの強さを測定できるようになるのです。

実際に、このデバイスでかゆみを測定したところ、患者が主観的に報告するかゆみの強さと、デバイスによる測定値には差があることが判明しました。

ある患者が最大レベルにかゆいと訴えたところ、違う患者にとっては平均以下のかゆさに相当する場合もありました。

患者の主観ではなく客観的にかゆみの強さを判定できれば「新薬がかゆみに効果があるのか試すとき」「その患者にとって本当に効果がある薬はどれか特定するとき」に役立つ、と期待されています。

かゆみを軽減するための装置

かゆみを測定する機器について紹介しましたが、今度はかゆみを抑えるための装置を紹介します。

ローラーが熱さと冷たさを交互に与える

Credit:電通大

かゆみを科学的にアプローチする手法として、かゆみ軽減装置というものがあります。

ある研究ではかゆみのある患部に温度変化を与えると、かゆみが軽減されると報告されています。(G ヨシポビッチ)。

これは痛みを伴うほどの有害な熱の変化ほど効果が高いとされていますが、当然火傷してしまうような熱の変化は治療としては役に立ちません。

そこで、この研究報告を元に皮膚にとって安全な温度を保ちつつ、かゆみを抑える適切な温度変化を与えるローラー型の装置が考案されています。

Credit:電通大

私たちは熱いものに触れたり、冷たいものに触れた時、すぐに手を引っ込めれば皮膚を損傷することなく耐えられる場合があります。

この装置はそうした原理を利用しており、ローラーの片側半周が冷却ゾーン、もう半周が加熱ゾーンに設定し、ローラーを素早く回転させることで皮膚に冷温刺激を安全に与えられます。

Credit:電通大

また、ローラーの温度は加熱ゾーンは最大43℃、冷却ゾーンは最小15℃までに制限されており、30分以内の使用ならば安全に利用できるといいます。

この装置を治験者が試したところ、かゆみの抑制効果を発揮することが示唆されました。

サーマルグリル錯覚によるかゆみ軽減装置

Credit:大阪ヒートクール株式会社

この装置は、温かいものと冷たいものを同時にふれると、本当は熱くないにもかかわらず「熱さ」や「痛み」を感じるサーマルグリル錯覚を活用したものです。

なぜサーマルグリル錯覚が起こるのかは明らかにはなっていません。

ただ、サーマルグリル錯覚を活用すれば体に悪影響を及ぼすことなく、「痛い」という感覚を与えることが可能です。

先程も解説しましたが、かゆみを生じる場所に痛みを与えると、神経回路の関係でかゆみは鎮まります。

このデバイスは、熱さと冷たさを同時に与えることにより、皮膚にダメージを与えることなくサーマルグリル錯覚による「痛み」を与えます。

この「皮膚を傷つけない痛み」により炎症や傷を悪化させずに、かゆみを抑えることが可能です。

2023年6月に行われた、商品開発に向けてのクラウドファウンディングは資金が集まらずに終了しましたが、2024年度中には一般販売を開始する予定です。

薬品以外の力でかゆみに対処する

かゆみの原因はさまざまであり、根本治療が必要な場合も多くあります。

そのため、皮膚科医や内科医などの専門医にかかり適切な薬を処方してもらうのが第一ではありますが、今回紹介したように引っ掻く以外の刺激によってかゆみ対策を行うことも可能です。

近い将来、今回紹介したデバイスが「我慢できないかゆみを何とか抑えたいとき」の助けになるかもしれません。

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参考文献

CMUセンサーが引っかき強度を客観的に測定 https://www.cs.cmu.edu/news/2023/scratch-intensity-sensor なぜ、かゆい? https://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/kankyo_igaku/kayumi/itch.html Scratching and noxious heat stimuli inhibit itch in humans: a psychophysical study https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17263822/

元論文

A multimodal sensing ring for quantification of scratch intensity https://www.nature.com/articles/s43856-023-00345-2 温冷刺激を用いたローラー型痒み抑制器の開発 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmermd/2013/0/2013__2A2-A13_1/_pdf/-char/ja
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 辛いかゆみに、引っ掻く以外で対処するデバイス