鼻が良い動物と言うとイヌを思いつく人が多いかもしれません。

しかし、実はネコも優れた嗅覚を持つことをご存じでしょうか。

ネコは人間の数万倍以上の嗅覚を持つと言われています。

人間とネコの嗅覚の違いは、その独特な鼻の構造によるものです。

ネコの鼻は精巧なガスクロマトグラフのようになっており、たとえ少量でも様々なにおいを嗅ぎ取ることができます。

また、ネコは臭いものを嗅いだとき口を半開きにして「フレーメン反応」をしますが、それもネコならではのにおいの感じ方によるものです。

今回は、最新研究からわかったネコの鼻の構造について解説するとともに、ネコのユニークな嗅覚がもたらす「フレーメン反応」についてもご紹介します。

目次

  • ネコの鼻の中は並列コイル構造
  • ネコの「フレーメン反応」はなぜ起こる?
  • ネコの嗅覚の研究はネコに何を及ぼすのか?

ネコの鼻の中は並列コイル構造

credit:PLOS Computational Biology

アメリカ・オハイオ州立大学のカイ・ザオ氏らの研究グループは、ネコの鼻の連続断面画像からネコがにおいを嗅ぐときの空気の流れをモデル化しました。

この研究はPLOS Computational Biologyに2023年6月29日付けで発表されています。

動物の鼻は、ガスクロマトグラフのように少しずつ空気中の様々な成分を分離し、感知することでにおいを嗅ぎ取っています。

ガスクロマトグラフは成分を「カラム」と呼ばれる管に通し、分離・分析する装置です。

カラムが長いほど緻密に分析できることから、動物の嗅覚は鼻の「カラム」にあたる鼻道の長さによって良し悪しが決まります。

上の画像はヒト、ラット、ネコの鼻腔断面ですが、人間(a)は鼻道が短く非常に単純です。

しかし、ネコの鼻腔断面(c)を見てみると、ネコの鼻は限られた空間の中をとても長い鼻道がコイル状にうずまいています。

この長い鼻道のおかげで、ネコは様々なにおいを嗅ぎ分ける優れた嗅覚を持っているのです。

鼻道を流れるにおいの速度を制御する「並列」構造

credit:PLOS Computational Biology

鼻道が長いとにおい成分を緻密に分析することができますが、そのためにはその鼻道を流れる気体の「速さ」をコントロールする必要があります。

気体が早く流れすぎると、においを感知することができませんし、遅すぎると感知するまでに時間がかかってしまうためです。

同研究では、気体の流れる速さをコントロールするべく、ネコの鼻はにおいを感じるための鼻道(図中の青線)と呼吸をするための鼻道(図中の緑線)の並列構造をとったと推測されています。

ネコは鼻から空気を吸い込んだ後、一部のちょうどいい流量を嗅覚の鼻道に流し、そのあまりを呼吸として吸い込んでいると考えれば、ネコの鼻が正確かつスピーディーににおいを嗅ぎ分けられることが説明できるというのです。

人間と違い、ネコは鼻での呼吸を主とするため、常ににおいを感知しながら生きています。

ネコにとって危険を察知したり、獲物にありついたりする際ににおいは欠かせないものです。

そんなネコには、実はもう1つにおいを感じる器官があります。

そしてその器官を使うとき、あのユニークな「フレーメン反応」の顔になると言われているのです。

ネコの「フレーメン反応」はなぜ起こる?

credit:いわさきはるか,ナゾロジー編集部

ネコが特定のにおいを嗅いだとき、口を半開きにしてかたまってしまうのはフレーメン反応と呼ばれるものです。

「くさい……」と言わんばかりの表情ですが、フェロモンに似たにおいを嗅いだときに起こる現象で、ウマやイヌなどの哺乳類でも見られます。

ウマは上唇をめくりあげ歯をむき出しにする、イヌは口元をパクパク動かすなど、フェロモンを感じたときの表情はバラバラですが、共通しているのは上あごの歯の付け根を空気にさらしていることです。

フェロモンを嗅ぐのは鼻じゃない!

credit:フォトAC

フェロモンを嗅ぎ取る器官はヤコブソン器官と呼ばれ、ネコの場合は鼻ではなく上あごの前歯の裏あたりについています。

フレーメン反応の際に口を半開きにしているのは、上あごのヤコブソン器官ににおいを送り込んでいるときの顔なのです。

また、ネコは「未知のにおい」を嗅いだときにもフレーメン反応をします。

ヤコブソン器官は鼻の嗅覚器官より感覚が鋭敏であると言われており、より精密ににおいを感じ取ることができます。

フレーメン反応をしながらかたまっているネコの様子は人から見ると臭さに打ちひしがれているように見えるかもしれませんが、実際は「フェロモンに似ているけどどうだろう?」「嗅いだことないけど危険なものではないかな?」とにおいを分析している顔なのです。

ヤコブソン器官は攻撃性にも関連する

credit:フォトAC

このように、鼻以上ににおいの分析に役立っているヤコブソン器官は、機能しなくなるとネコの行動にも大きな影響を及ぼします。

フランス・応用動物行動学研究所 (IRSEA)のピエトロ ・アスプローニ氏らの研究によると、上あごの皮膚の炎症によりヤコブソン器官の機能が疎外されてしまったネコはネコ同士の攻撃性が高くなったそうです。

フェロモンというと発情に関わるものと考えられがちですが、実は様々な役割があり、ネコ同士のコミュニケーションや、ネコを落ち着かせる役割もあります。

フェロモンが感じ取れなくなると、ネコの不安が強くなる上、他のネコとのコミュニケーションもうまくいかなくなるため、攻撃的なネコになってしまうのです。

それだけ、ネコにとって「におい」は重要なもの。

ネコの嗅覚やにおいに関する研究が進むことは、今後のネコたちにどのように影響するのでしょうか?

ネコの嗅覚の研究はネコに何を及ぼすのか?

credit:Pixabay

最新の研究でネコの鼻の構造が明確になり、ネコの嗅覚が優れていることが証明されました。

その嗅覚は爆弾や麻薬などを探知することができるレベルですが、残念ながらイヌのようにネコが働くことはないでしょう。

前述の研究グループの1人であるザオ氏も「ネコのしつけは非常に難しい。」と話しています。

しかし、ネコのにおいに関する研究はネコのストレスを取り除くことにつながっています。

ネコを落ち着かせるのに有効なフェロモンの1つを抽出したスプレーがすでに「フェリウェイ」という名前で商品化されているのです。

ネコの嗅覚やにおいに関する研究は餌の嗜好性を上げたり、発情を抑制したりすることにも役立つと考えられています。

より細かな嗅覚の分析によって、ネコがもっと健やかな日々を過ごせるようになるといいですね。

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参考文献

Cat Noses Contain Twisted Labyrinths That Help Them Separate Smells https://www.scientificamerican.com/article/cat-noses-contain-twisted-labyrinths-that-help-them-separate-smells/

元論文

Domestic cat nose functions as a highly efficient coiled parallel gas chromatograph https://journals.plos.org/ploscompbiol/article?id=10.1371/journal.pcbi.1011119 Pathology and behaviour in feline medicine: investigating the link between vomeronasalitis and aggression https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1098612X15606493
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 ネコの嗅覚を解説!フレーメン反応は鼻を使わずに嗅いでいた?!